最新の治療によると老化を制御できる日は、着実に近づいているという。鍵を握る老化の12の特徴や「老化の数値化」などについて、老化の専門家である早野元詞氏が解説する。※本稿は、早野元詞『エイジング革命 250歳まで人が生きる日』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
老化の制御に道をひらく
エイジング・ホールマークス
老化と病気を隔てる大きな壁は何でしょうか。
たとえば、がんのように病因が生物学的に一定理解されていて、診断が可能で、治療すなわち介入方法があるかどうか──これが重要な分岐点です。つまり、これまで老化は加齢に伴う身体機能の低下とみなされ、加齢黄斑変性症や骨粗鬆症、糖尿病などの要因の1つと考えられ、診断も治療も特にできないと思われていたわけです。
しかし、1990年以降には、老化と共に変化する遺伝子や、タンパク質制限やカロリー制限で寿命が延伸する理由を多くの研究者が明らかにしていく中で、老化を予防するだけでなくコントロールする概念が新しく生まれてきました。そして2013年に、スペイン・オビエド大学のカルロス・ロペス・オチン教授らが「エイジング・ホールマークス」と呼ばれる9つの「特徴」に老化を分類し、2023年にはそれらが12のエイジグ・ホールマークスへと更新されたのです。
12の老化の特徴は次の通りです。
(1)ゲノム不安定性(遺伝情報が不安定になる)
(2)テロメアの短縮(染色体の末端を保護するところが脆弱になる)
(3)エピゲノム変化(後天的なDNA配列の化学修飾と遺伝子の使い方の調整)
(4)タンパク質恒常性の喪失(タンパク質の分解など)
(5)オートファジーの機能低下(細胞が自らの一部を分解、再利用する作用の低下)
(6)栄養センシングの異常(細胞内の栄養・代謝異常)
(7)ミトコンドリアの機能異常(細胞内のエネルギー作りの異常)
(8)細胞老化(老化した細胞が周りの環境を変化させる)
(9)幹細胞の枯渇(皮膚や血液、脳など組織の恒常性の低下)
(10)細胞間コミュニケーションの変化(細胞の中のシグナル異常など)
(11)慢性炎症(免疫細胞の機能低下)
(12)腸内細菌叢の変化(多様な細菌と共生することで代謝や免疫など身体全体を制御するシステムの破綻)
エイジング・ホールマークスにより、老化の制御が可能になる日が着実に近づいています。
老化現象を分子レベルから
身体全体まで把握できる
より具体的に説明しましょう。
エイジング・ホールマークスには「3つの基準がある」とカルロス・ロペス・オチン教授らは考えています。
(1)老化の過程で生じてくる特徴が時間と共に現れること。
(2)ホールマークスに関係しているタンパク質や遺伝子を実験的に強くしたり弱くしたりすることで、老化を促進したり遅らせたりできること。