そして最も重要なこととして、

(3)ホールマークスに関係しているタンパク質や遺伝子を標的とした治療的介入によって、老化を減速、停止、あるいは逆転させられること。

 つまり、時間と共に変化する老化という現象について、分子レベルから細胞、そして身体全体として把握しコントロールすることが可能であることを意味しています。

 もちろん、ヒトのような哺乳類は非常に身体の構造が複雑です。酵母、線虫、ハエといった比較的寿命も短くシンプルな生物よりも、老化の定義が難しい側面もある。しかし、ホールマークスは生物種を限定せずに、老化の特徴を捉える見方として非常にわかりやすいため、30万本以上の論文で使用されている概念です。

細胞同士は常に連絡しあい
情報をやりとりしている

 エイジング・ホールマークスの12の特徴は、それぞれが独立しているわけではなく、互いに影響し合っています。

 DNAに傷が入ってしまうような(紫外線や酸化ストレスなどによる)ゲノム不安定性が加齢と共に蓄積されれば、ミトコンドリアの機能低下や細胞老化の原因になりますし、幹細胞で生じれば血液や筋肉をうまく作れなくなってしまいます。

 また、食事や感染症などの日常のストレスは「エピゲノムの変化」として記憶されて、細胞内の栄養センシング(判別)に関わる遺伝子や、炎症に関わる遺伝子の機能に障害をもたらすこともあります。

 要するに、多くの細胞同士は連絡し合い、コミュニケーションを取っている。体内では直接もしくは間接的なシグナルによって、細胞同士の情報のやりとりが常に行われているのです。

 だからこそエイジング・ホールマークスの要点は、それぞれの細胞の中で完結する話ではなく、人体というシステム全体におけるアプローチとして捉える必要があります。

 喩えれば、人間同士のようなものかもしれません。人と人がパーティ会場に集まって直接会話をすることもあれば、インターネットを介してSNSなどでコミュニケーションを取ることもある。そして、近くに変な危険因子が出現すると周りに悪影響が生じるような人間味のある話も、体内においても同様です。