農林中央金庫が、1.3兆円の資本増強のめどが立ったと発表した。調達額が「当初予定の1.2兆円を上回った」ことを強調し、出資者である農協をはじめとしたJAグループの結束が揺らいでいないことをアピールしている。だが、現実はそれとは程遠い。“超過達成”したとされる増資の内情を徹底解明する。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
後配出資は目標から3000億円の“未達”
「特別奨励金820億円のアメ」でトップ続投
「JAや(都道府県段階にある)信連(信用農業協同組合連合会)など会員には大変なお願いをしたが、資本増強の規模は当初検討していた水準を上回る。本当に感謝したい」
農林中央金庫の奥和登理事長はJAグループの機関紙である日本農業新聞のインタビュー(8月2日付)で、資本増強の規模が、当初予定より0.1兆円多い、1.3兆円に上ったことを誇らしげに語った。
インタビュー記事掲載の前日の8月1日、農林中金は2024年4~6月期に4127億円の最終赤字に陥ったと発表。同時に、欧米の金利高止まりを受けて値下がりしていた保有債券を損失覚悟で売却し始めたことを明らかにした。
農林中金は米欧債の“損切り”のため、25年3月期は「1.5兆円規模の赤字になる可能性がある」とアナウンスしている。
他方、農協に対しては内々に、「2兆円規模の赤字可能性を視野に入れている」と踏み込んだ説明をしており、予断を許さない状況だ(詳細は、『農林中央金庫が「2兆円の赤字」に陥る可能性をJAに示唆、悪い情報の“小出し”が農協の不信を呼ぶ』参照)。
農林中金は、年間約600億円を払ってきた配当の停止をすでに表明している。リーマンショック後の2009年の1.9兆円の増資の際、農協や信連に資金の提供を求めた経緯もあって、農協組合長からは「運用の失敗の尻拭いを出資者にさせるなら、まず奥氏に引責辞任をさせるべきだ」との声が上がっていた。
こうした中、農林中金が資本増強の規模が“超過達成”となる見込みを発表したのは、JAグループの結束を内外に示す狙いがあるものとみられる。
だが、増資の内実は、農林中金が最も重視している後配出資の調達額が当初目標を約3000億円下回るというお粗末なものだった。
次ページでは、農林中金の資本増強の実態を、当初の計画と実際の調達スキームを比較しながら明らかにするとともに、奥氏ら幹部の保身を優先する農林中金をはじめとしたJAグループに迫る“本当のリスク”を解明する。