写真:5月22日の決算会見で質問に答える農林中央金庫の奥和登理事長(奥左)と北林太郎・代表理事兼常務執行役員5月22日の決算会見で質問に答える農林中央金庫の奥和登理事長(奥左)と北林太郎・代表理事兼常務執行役員 Photo:JIJI

農林中央金庫による1.2兆円の増資は、出資要請に応じない農協が出るなど難航している。出資金の積み増しは、資本増強の達成期限である2025年3月時点では未達になる見込みで、3月以降に追加の出資要請が行われることがダイヤモンド編集部の調べで分かった。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

半数のJAが赤字になってもおかしくない衝撃
第1弾の出資要請では最大3100億円が未達に

 農林中央金庫による1.2兆円の増資は、リーマンショック後に行った前回の増資のようにスムーズにはいかないようだ。

 09年3月期に実施した前回増資では、当初「1兆円超の資本増強を行う」と発表し、結果的に1.9兆円が短期間で集まった。

 それから15年半、農林中金の出資者である農協などに、前回の増資時のような余裕はない。

 米国の金利上昇の影響で、農林中金が保有する外国債券が値下がりし、有価証券の含み損は24年3月末で1.8兆円に膨らんだ。農林中金はこうした低利回り債権の損切りを迫られ、25年3月期には巨額赤字に沈む見込みだ。

 それに伴い、農林中金は1.2兆円の資本増強への協力を農協や都道府県段階にある信連(信用農業協同組合連合会)などに要請している。

 このバッドニュースに、全国の農協は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。5月以降に行われた総代会(企業の株主総会に相当)で、「なぜ農林中金の投資の失敗を、農家組合員の資金を使って穴埋めしなければいけないのか」など、増資要請に応じることに反対する意見が相次いだのだ。

 農協組合長も対応に追われている。農林中金が、年間約600億円支払ってきた配当がなくなることが、全国の農協の経営を直撃するからだ。

 かねて農協は、職員が共済(保険)の営業ノルマを達成するために本来不要な保険契約を結ぶ“自爆営業”が社会問題となり、営業活動の自粛を余儀なくされている。それにより共済事業が減益となり、ただでさえ経営はひっ迫していた。

 ダイヤモンド編集部が4月に、農協の5年後の損益シミュレーションを実施したところ、全国の約500JA中、207JAが赤字に転落する結果となった(詳細は、特集『儲かる農業2024 JA農水省は緊急事態』の#1『過去最多207農協が赤字転落!JA赤字危険度ランキング2024【全国ワースト489・完全版】3位JA京都、9位北群渋川、1位は?』参照)。

 このシミュレーションが、よりシビアな形で現実のものになろうとしている。ある農協組合長は「半数のJAが赤字になってもおかしくない事態だ」と内情を明かした。

 ただし、さすがに農林中金も、財務が脆弱(ぜいじゃく)な農協に、無理に出資金を出させることはしないようだ。本編集部が入手した内部資料によれば、「(資本増強に向けた農協などへの依頼額は)まずは上部団体向け資本提供額が会員(農協など)の自己資本を超過しない範囲とする他、資本提供後の自己資本比率などにも留意した金額を依頼させていただきます」とある。

 こうした一定の配慮の下で行う増資に向けた農協との交渉は、一筋縄ではいかないようだ。

 次ページでは、農林中金の1.2兆円の増資スキームの詳細と、「未達」が発生する要因とその影響、農協が抱く農林中金への反発などを明らかにする。