新課程で重視される「探究学習」
社会人の学び直しでも有用

 ここまで述べてきた内容は読者諸氏にはあまりなじみがないように思われたかもしれないが、何もこれは歴史学において「新発見」があったというわけではない。

 過去の事象そのものは変わらない。ただ、これらの事象には多様な性質が混在しており、ある時代には特定の性質だけが取り沙汰され、他の性質は埋もれたという事態が、往々にして生じるのである。その埋もれた性質が掘り起こされ脚光を浴びると、「歴史の再評価」として日の目を見ることになるのだ。

 新課程では「探究学習」が強調されている。探究学習とは、学習者が自ら課題を設定し、情報の収集や分析などを通じて解決を図るものだ。

 とはいえ、ここでいう課題の設定は、既存の概念を疑うというよりは、実態を精査するといった見方が適切だろう。探究学習は、知識を習得する上で欠かせない、自分の力で考える思考力を身に着けることにつながる。

 ちなみに、教科書のルイ14世についての記述を見ると、旧課程の世界史Bにおいても、「しかし,貴族や都市自治体など特権団体が依然として大きな勢力をもっていたため,王権による中央集権化のすすみ方はゆるやかであった」とある。ここでいう「特権団体」とは、もちろん社団のことを指す。

 一方で、新課程の世界史探究では、「ルイ(14世)は半世紀にわたる親政を開始し、王権神授説を奉じて貴族への統制と官僚制を強化し、絶対王政をきわめた。」とある。一見すると旧来の記述が復活したかのように読み取れるが、これはあくまでも国王からの視点を中心とした一つの「見解」であり、探究活動を通じた絶対王政の実態を考える上での伏線と見なすべきであろう。

 現在進行形で学校教育を受けている生徒たちだけでなく、学び直しやリスキリングが重視される社会人にも、この探究学習の姿勢は通用するものなのかもしれない。

<伊藤先生の「世界史学び直し」おすすめ書籍>
『小学生でもわかる世界史』朝日新聞出版社、2023年
とにかく歴史の「流れ」をつかみたいという方にお勧めです。本書の紹介文には「わかりやすさを求めたあまり、詳しさと丁寧さを犠牲にした暴書」とありますが、それでも世界史全体の基本イメージをつかむにはうってつけの一冊。

『今さら聞けない! 世界史のキホンが2時間で全部頭に入る』すばる舎、2021年
せめて教科書レベルの知識は身に着けたい……という方にお勧めです。教科書レベルの中でも、一番核となる重要なポイントを押さえているため、世界史の基礎知識をおさらいするには最適の一冊です。

『歴史の本質をつかむ「世界史」の読み方』ベレ出版、2023年
「帝国」「一神教」「産業革命」といった、知っているようで説明しづらい概念の説明から、歴史を通じた思考力をガイドする一冊です。断片的だった知識が、読むにつれ徐々に脳内でつながっていくこと請負です。