大都市は税収減で公共サービスに支障
東京都の減収額は675億円

 ふるさと納税が引き起こしている最も大きな問題は、大都市の税収が失われることだ。大都市の多くは地方交付税の不交付団体なので、ふるさと納税による減収がそのまま減収になってしまう。

 東京都のホームページは、2023年度の減収額が675億円だと説明している(これまでの累計は3018億円)。これは特養ホームでいえば、75施設分の予算に匹敵する。それだけの施設が、ふるさと納税制度による税収流出のために建設・運営できなくなっているのだ。

 東京都世田谷区のホームページでは、23年度の減収額が99億円という。そして、「流出した区民税は、本来世田谷区民の皆さんのために使われるはずだったお金です」としている。

 ふるさと納税で税収が減っても、減収分の75%は地方交付税で補填されるが、税収が豊かな東京都や世田谷区などの「不交付団体」は対象外だ。減収は補填のしようがない。

来年10月からのポイント還元禁止
仲介サイトは規制できず

 最近では、仲介サイトによるポイント付与が問題となった。返礼品は寄付の3割までとする規制があるが、ポイントを付与すれば、規制が骨抜きになってしまう。

 自治体が仲介サイトに支払う手数料は、給付額の10%程度と言われる。仮に1.1兆円の寄付の全てがサイト経由なら、1100億円の収入がサイトに入る計算だ。来春には、アマゾンジャパンが仲介サイトとして参入すると見られている。一方で利用者はポイント還元で決められた返礼割合以上の見返りが得られることになる。

 東京都のホームページは、「大手EC事業者の仲介事業への参入等により、今後さらに貴重な税金が手数料として仲介サイトに流れてしまう懸念があります。こうした状況は、ふるさとや応援したい自治体に、寄附を通じて貢献するという『ふるさと納税』の趣旨からは大きくかけ離れています」と訴えている。その通りだと思う。

 こうした状況の下で、総務省はポイントを付与する仲介サイトを通じて自治体がふるさと納税を募ることを、2025年10月から禁止すると6月末に発表した。

 私は、ポイントを制限または禁止する規制には賛成だが、果たしてそうした規制をできるかどうかが問題だ。なぜなら、ポイントの付与そのものは民間の事業者の判断で、自由にできるはずのものだからだ。それを国が禁止することはできない。

 このため、今回の規制も民間事業者に対するものではなく、自治体に対するものとなっている。

寄付総額の45%が全体の5%に偏在
特産品がない自治体は寄付集まらず

 ふるさと納税制度については、さまざまな問題がこれまで指摘されてきた。 ポイント禁止は当然の設置だと思うが、仮にそれが実現したとしても、制度が抱える基本的な問題が解決されるわけではない。いまや巨大な存在になってしまったふるさと納税制度に対して、根本から検討を加える必要がある。

 ふるさと納税が作られたのは2008年だ。地方税の税収が大都市に偏っており、このため、地方の財政運営が困難になっているという問題意識から、地域活性化を目的にして導入された。

 松本剛明総務相は、8月2日の記者会見で「返礼品による地場産品の提供は、新たな地域支援の発掘につながり、雇用の創出、地域経済の活性化に資する」と述べた。

 しかし、それは特産物などがある地方の場合だ。特産品がない地方には、ふるさと納税の寄付が集まらず、したがって制度の恩恵が及ばない。ふるさと納税寄付金の受け取り団体は、全体の5%でしかない上位100位までの自治体だけで、総額の45%になる。これは返礼品が多くあるからだ。

 本来、財源の偏在を是正する必要があるのは、特産物も作れないような地域だろう。ふるさと納税制度は、豊かになる可能性を持つ地方公共団体を助け、困難に直面している地方公共団体には何の助けにもならない。これは、財源の公正な配分という目的に照らして、大きな問題だ。