私のお客さまで、M&Aをうまく活用して同じ業界の企業を次々に買収し事業を拡大してきた経営者がいます。すでに故人になり息子さんが会社を承継しているのですが、この方が現役だったころ、会社を買って欲しいという提案を受けると、法外な値段なら別ですが、買値を値切ることはまずなく、ほぼ言い値で買っていました。それでも失敗しないのです。買収後がうまくいくからです。

 今の時代のM&Aはデューデリジェンスを行って値付けをしますが、この方は双方が納得できる適正価格より少し高いぐらいの価格で買うというスタンスでした。そのスタンスが相手企業にとっての信頼となり、買収された先の幹部や社員も評価が高いことに喜び、買収後の成長につながっていました。

 M&Aの買い手の中には、とにかく安く買った方が得だという考えを譲らない人もいますが、それだけでは安く買えてもその先の成長が望めません。PMI(Post Merger Integration)がうまくいきにくいのです。交渉相手や買収される側にもプライドを持たせるような交渉が必要です。

日本のM&A市場は未成熟
中小企業の経営者は要注意

 M&Aの話になったので少し脱線すると、後継者不足の今、中小企業の社長のところにはたくさんM&Aの案件がくると思います。

 最初のうちは、ほとんどの経営者が喜びます。「当社もM&Aをやるようになったか」というふうに。でも、ここで肝に銘じておきたいことは、元々、その会社を心から買いたいと思っていたのなら別ですが、同じような案件はこれから先も山ほど来るということ。あわてて目の前の案件に飛びつく必要はありません。

 もうひとつ注意したい点は、日本のM&A市場は成熟しておらず、特に中小企業を対象にしたM&Aは仲介業者のレベルがとても低いということ。