業者名は語弊があるので避けますが、M&A仲介会社の社員の給料がやたらに高いところは、案件紹介の情報料名目だけで多額の料金を取るなど、あこぎな仕事している裏返しでもあるのです。最悪なのは、売り手企業と買い手企業の間に同じ仲介業者が入る「両手取引」をしているところ。売り手企業と買い手企業の利益は完全に相反しますから、市場が成熟した欧米ではあり得ません。

 M&Aの手数料は多くの場合、買収金額などに報酬率を掛けて算定するリーマン方式が採用されますが、この方式では高く売った方が売り手側についたアドバイザーも買い手側についたアドバイザーも結果的に儲かる。だから仲介業者が売り手と買い手の両方から手数料を得る両手取引は言語道断なのです。値段を吊り上げますからね。

 ある有名なM&A仲介会社の経営者と会った時、「そんなことを続けていると業界がおかしくなりますよ」という話をしたことがあるのですが、いまだに続けているようですね。

駆け引きをして
「取れるだけ取ってやる」という姿勢ではダメ

 交渉の話に戻すと、2つ目のポイントは相手のメリットを考えることです。それは社内の人を相手にした交渉でも、社外のお客さまとの交渉でも変わりません。

 奪えるもの全部奪ってやろうという交渉態度では話はまとまらないのです。相手のメリットを考えることは、思いやりを持って交渉すると言い換えてもいいでしょう。すべてを譲れと言っているのではありません。相手にメリットがないと交渉は成立しないのです。

 思いやりを持って交渉に当たることは、大きな案件でも小さな案件でも大切なことです。

 最近経験した個人的な話をします。知人からある依頼のメールが来ました。文面にはいろいろな事柄が長々と書いてあったのですが、私にはメリットはほとんどないし、私をうまく使って利を得ようという態度が見え隠れしました。

 そんなことはよくあることなので別に構わないのですが、あえてやりたい仕事でもないので、理由を述べて丁寧な断りのメールを返したところ、全くなしのつぶてです。

 こちらには関心もメリットもない長いメールを読んだ上で断りのメールを返したのだから、一言、「有難うございました。次の機会によろしくお願いします」くらいの返事を書けば次につながるかもしれないのに、自分に都合の悪い反応だったら返事も書かない。相手に時間を取らせたという思いやりも感謝の気持ちもないからです。

 大きな交渉でも、今ここで挙げたメールのような小さな交渉でも、相手にも立場があるので、テクニックを弄(ろう)してうまくまとめてやろうなどと考えてはいけません。

 どこまで妥協するのかは別として、相手は何を考えているのかを推察した上で、自分が求めるべき事はきちっと伝えた上で、お互いメリットある内容で着地しようという気持ちが大切です。それでも交渉がまとまらないときには、交渉の相手をしてくれたお礼くらいは伝えるべきです。

 駆け引きをして取れるだけ取ってやるという姿勢ではダメで、稲盛和夫さんがおっしゃるように「人間として何が正しいのか」を常に考えて、常識をわきまえて交渉しないとうまくいきません。

(小宮コンサルタンツ代表 小宮一慶)