熊谷氏が書いた『パッシング・チャイナ』(講談社)は、刺激的なタイトルで、話題になっている。失われた20年で、一時期「ジャパン・パッシング」などと言われたが、なぜこの時期に中国の将来を大胆に予想した著書を出したのか、そのエッセンスは何かを聞く。
中国の実態を身に沁みて感じた経験
――この刺激的なタイトルには、どういった思いが込められているのですか?
東京大学大学院修士課程修了。1989年、日本興業銀行に入行。同行調査部エコノミスト、みずほ証券エクイティ調査部シニアエコノミスト、メリルリンチ日本証券チーフ債券ストラテジストなどを経て、現職。財務省「関税・外国為替等審議会」の委員をはじめとする様々な公職を歴任。過去に各種アナリストランキングで、エコノミスト、為替アナリストとして合計7回1位を獲得している。「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系)レギュラーコメンテーター。著書に『日経プレミアシリーズ:消費税が日本を救う』(日本経済新聞出版社)、『パッシング・チャイナ』(講談社)など。
「パッシング・チャイナ」という構想は、私が長年温めてきたものです。
「バッシング」ではなくて「パッシング」――。すなわち、中国を「非難」するのではなく、もう中国を「通過」「素通り」してもいいのではないか、という主張です。
われわれ日本人は「中国幻想」に振り回されるのではなく、もう少し気楽にいく必要がある、というメッセージが、この「パッシング・チャイナ」というタイトルには込められています。
日本のすぐ近くには、「南アジア」という巨大な潜在市場があります。タイ、インド、インドネシア、ミャンマー、ベトナムなどの国々です。
彼らは、戦後の焼け野原から不死鳥のように立ち上がり、アジアから初めて先進国の仲間入りを果たした日本人に対して、ある種の憧れを持っています。極めて「親日的」な国が多いのです。
日本企業にとっては、中国に固執せず、「チャイナ・プラス・ワン」――つまりは、中国以外にもうひとつ海外拠点を作ることこそが喫緊の課題なのです。