PRはPublic Relationsの略であり、究極の目的はすべてのステークホルダーを自社のファンにすることにある。しかし残念ながら、いまだにPRや広報は売上を伸ばすための手段、広告の一種と理解されるケースも少なくない。書籍『経営にPRを』では、中小企業の経営に本来のPRの視点を取り込み、「広報の自走化」で情報発信力を高めることの重要性について解説している。
PRを理解していない経営者が多い
私の会社は、現在約500社のクライアント企業を抱えており、毎月約25社のペースでその数が増えています。
契約していただくと、最初にサクセスミーティングと名づけた会議を行います。そこには必ず社長や役員に出席していただき、企業経営におけるPRの役割と重要性についてすり合わせを行います。
会議ではまず「広告とPRの違いがおわかりになっていますか?」と質問をさせていただくのですが、明確に答えられるケースはほとんどありません。この二つは全然意味が違います。
ところが多くの経営者は、PRを広告のことだと思っています。そのためPRも商品やサービスなどのプロダクト寄りになってしまう傾向があります。自社の商品・サービスをメディアに取り上げてもらって顧客の認知度を上げ、売上を増やしていきたいという目的でPRを行っているのです。
本来はそうではありません。PRは広義でいえばマーケティングの一部であるかもしれませんが、狭義においてはマーケティングとは異なり、社会との関係性をよくする活動です。PRの本質的な目的は、社内外のステークホルダーを対象とした「ファンづくり」です。
社員を通じて自社の商品やサービス、さらには会社そのもののファンになれば、リピーターになったり知り合いに紹介してくれたりします。その結果として顧客が増え、売上も伸びるのです。この順番を間違えてはいけません。
「ファンづくり」は、ほかにもさまざまな効果が期待できます。人材採用もその一つです。年々、人手不足が進み、特に中小企業は大変です。そうしたなかで自社のファンが増えれば当然、採用力がついてきます。
いまいる社員の維持にも、大きな効果があります。社員が会社のファンになってくれれば退職率が下がり、仕事でのパフォーマンスが上がるはずです。
上場会社や上場を目指している企業であれば、株主や投資家の間に自社のファンを増やすことは必須でしょう。多くの上場企業が行っているIR活動も、その本質は同様です。
「自走化」が理想
だからこそ、PRは外部のPR会社や広告代理店に任せきりにするのではなく、自社で主体的に行う必要があります。
私の会社は中小企業向けに広報支援サービスを提供していますが、最終的なゴールは私の会社に頼らなくても自社でPR活動ができるようになってもらうことです。これを「広報の自走化」と称しています。ある意味、私の会社の仕事をなくすためのサービスを提供しているのです。
なぜ自走化がいいのか。当たり前ですが、PR会社の担当者は、私たちのクライアントからすれば外部の人間です。そのため、クライアントの会社のことを十分に理解するには最低でも3カ月はかかるでしょう。また、いったん理解したとしても会社は変わり続けます。
その点、なんのために会社を経営しているのかという想いが一番強いのは経営者です。
社員も経営者の考えや自社の動きを、外部の人間よりよくわかっているはずです。そういう方たちがPRのテクニックを身につけ、自分たちで情報発信していったほうが理に適っているのは当然です。
さらに言えば、PRは一度だけの情報発信ではだめです。繰り返し行うことで少しずつ効果が出てきます。コストを含めた継続性という点からも、自社でPR活動を行う自走化が大事なのです。