購入後も顧客とつながり続け
強みのサービス網を活かす

 新たな商売の基準では、スマートフォンアプリなどを通じて商品購入後の顧客とつながり続け、使用体験価値をアップデートすることで満足度向上を目指す。

 顧客とつながるトリガーとなるのが、「IoT延長保証サービス」だ。インターネット接続機能を持つIoT家電を専用アプリにつなげるなどして商品登録することで、同サービスに申し込むことができる。メーカー保証期間は通常、購入後1年だが、無料で3年に延長できる。一般的な延長保証は有償が多いため、魅力的なサービスといえる。これは2023年2月に冷蔵庫からスタートしたサービスで、パナソニックでは25年3月末にIoT家電のネット接続件数1000万件を目標としているが、こうした施策も奏功してか、24年3月末ですでに約900万件に達するなど順調に推移している。

 IoT接続の利点を活かして使用体験価値を高めるサービスとして、たとえば、エアコンやドラム式洗濯乾燥機などでは、IoTで使用状況を把握し、クリーニングの時期をアプリで通知している。冷蔵庫では定期診断のリポートを毎月配信したり、庫内の温度上昇を検知した場合は対処方法をわかりやすく伝えたりする。

 そして、パナソニックの強みを活かしたメンテナンスサービスの充実を図ることで、安心して使い続けられる環境整備も進める。同社は全国約100カ所のアフターサービス拠点を展開しており、年間に約180万件の修理を行っている実績がある。国内外の家電メーカーはアフターサービスを外部委託するケースが増えているが、「長く使い続けていただく前提で商品を開発し、アフターサービスにも力を入れるのが当社のDNAです」(髙木氏)。

 たとえば、省エネ性能が高い家電でも、ほこりや汚れがたまると機能が低下する。このため、パナソニックでは独自のクリーニングサービスをまずエアコンでスタート、2024年5月からはドラム式洗濯乾燥機でも一部地域から始め、現在は全国に広げた。

 同社は乾燥にヒーターを使わず、空気中の熱を集めて利用するヒートポンプ方式をドラム式洗濯乾燥機で他社に先駆けて採用してきた。クリーニングサービスでは、熱交換器や乾燥風路、フィルターなどを洗浄し、ベストなコンディションに保つ。クリーニングは有償だが、2年間のアフターサービスがパックになっている。

 同社のドラム式洗濯乾燥機は、ヒートポンプユニットを本体上部に配置する設計となっているため大がかりな分解作業をせずに洗浄できる。髙木氏によれば、あえてネジ留めにして分解しやすくするなど、アフターサービス部門の意見なども取り入れながら、循環型の設計を各種商品で強化している。これは商品をリサイクルしやすくする利点もある。

 定期的なメンテナンスで良好な状態を保っている商品が増えれば、再生してPFRとして販売したり、サブスクで提供したりできる商品も増えるだろう。それは、パナソニックの商品全体の価値を高めることになるし、資源の有効活用にもつながる。

「使い続け」モデルへのビジネストランジション戦略パナソニックの検査済み再生品「Panasonic Factory Refresh」は、ドラム式洗濯乾燥機や冷蔵庫、テレビ、調理家電など10カテゴリーをラインアップ。公式ショッピングサイト「Panasonic Store Plus」で取り扱う。 (写真提供:パナソニック)

長期視点で
循環経済実現をやり切る

 パナソニックが2020年から始めた家電のサブスクサービスの契約件数は、23年度に前年度比2・1倍となり、利用者を大幅に増やしている。同年春に発売した縦型全自動洗濯機では、製品全体のプラスチック量の約40%を再生プラスチックに置き換えるなど、サステナブルなものづくりにも注力している。

 再資源化が最も進んでいる冷蔵庫や洗濯機では、リサイクル率が約8割に及ぶ。また、グループ会社などの協力を得て、使用済みのエアコン室外機を人手に頼らず、ロボットが部品単位にまで解体する「廃家電自動解体システム」の開発にも成功、対象製品の拡大を視野に入れた実証評価を進めている。

 このように、サーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みは、全方位で進化している。

 今後の課題として岡田氏は、「IoT接続によって商品の使用状況がわかるようになってきたので、お客様の使用価値を高める新たなサービスや商品開発にそのデータを活かすとともに、トレーサビリティのデータを活用して商品の残存価値を評価できる仕組みづくりにもチャレンジしていきたい」と語る。

 走行距離や修理履歴、市場ニーズなどによって残存価値が評価される自動車と同じような仕組みが、家電製品についても構築できれば、使い続けが業界全体として広がるだろう。政府でも、デジタル技術を活用してトレーサビリティを確保するサーキュラーエコノミー情報流通プラットフォームの早期立ち上げを目指し、共通データフォーマットやプラットフォーム間の相互連携インターフェースなどの検討を急いでいる。パナソニックでは、そうした動きに最大限協力していく考えだ。

 再生品や中古品に対する需要が高まってくれば、自治体や小売店などと連携した静脈物流や地域ごとの整備拠点の構築など、地域循環型の仕組みづくりも必要になるだろう。そこでも、全国に張りめぐらせたパナソニックのサービス網が活きてくる可能性がある。「当社の強みを活かして、長期視点でサーキュラーエコノミーの実現をやり切る」。岡田氏と髙木氏は、2人してそう決意を語った。