持続可能性高める再設計や
IoTによる予防保全も
もう一本の運命の電話は、ある計測器メーカーのサービス責任者からだった。そのメーカーがサポートを打ち切った計測器のユーザーである大手航空会社から修理の依頼があり、それを引き受けてくれないかと依頼されたのである。
航空機のコックピットにある計器類が正しく作動しているかをチェックするには、多くの測定器を組み合わせたシステムが必要で、一つの測定器が壊れるとシステム全体を入れ替えなくてはならない。それには大きなコストがかかるので、その航空会社では古い測定器を修理して使い続けたいと考えていたのだ。
臼井氏が成田空港の整備場に出向き、壊れた測定器を3台ほど持ち帰って修理すると大変喜ばれ、次々と修理を頼まれた。そして、その噂を聞き付けた別の大手航空会社からも、修理の依頼が舞い込んだ。これが、メーカーサポートが終了した機器の修理・延命サービス、KLESの誕生につながった。
KLESは、計測器・計量器のほか、部品基板・装置内ユニット、システム制御用PCなど幅広い製品を対象としており、「どこまで延命できるかをユーザーと一緒に考え、累計で3万台以上を修理してきました」と、京西テクノス専務取締役の大嶽充弘氏は語る。
さまざまな業種の工場では20年、30年前の機器やシステムが使われていることは珍しくない。壊れても交換部品の調達ができない場合もあり、そうしたケースでは代替部品を使うなどして機能を維持できるよう、顧客の要求に基づき京西テクノスは再設計を行っている。代表的なものとしてこれまで、LNG(液化天然ガス)タンク内のガス容量を計測する装置、半導体ウエハーを洗浄する超音波発振装置などの再設計を手掛けた実績がある。
同社は2024年2月、半導体製造装置開発のTCK(福岡市)を子会社化した。10月にはTCKを吸収合併してその技術力とノウハウを取り込み、KLESの再設計サービスを拡充するほか、設計・開発を受託するODM事業の本格展開を視野に入れる。
これに加えて、「いま注力しているのが、IoT技術を活用した予防保全」(大嶽氏)である。同社ではIoTセンサーをMRI(磁気共鳴画像装置)などに取り付け、遠隔監視・制御を行うシステム「Wi-VIS」を自社で開発、運用している。同システムを通じて機器の稼働状況に関するビッグデータが蓄積されるほど、より正確に故障・劣化の予兆を診断することができ、壊れる前に部品交換や洗浄、オーバーホールなどの保全措置を取ることが可能になる。そのために、大学と連携してAIによるデータ解析の研究も進めている。「今後は、AIを活用して修理・保全診断力の向上につなげたい」(大嶽氏)
トータルマルチベンダーサービスによるさまざまなメーカー製品の保守サポート、KLESによるメーカー保証終了品の延命、持続可能性の高い製品設計、IoTによる予防保全と、〝使い続け〟を支えるサービス・技術のポートフォリオが揃ってきた。目指すのは、「工場全体、医療機関全体の機器やシステムがダウンせず、常に正常稼働を続けるようサポートする究極のサービスです」と、臼井氏は力を込める。
2026年秋には、約40億円をかけた第二本社が京都市内に完成する予定で、手薄だった西日本での事業基盤がいっきに拡充される。京西テクノスの循環経済型ビジネスが、さらに飛躍を遂げそうである。
◉構成・まとめ|田原 寛 撮影|洞澤佐智子