利便性の追求から、社会的課題の解決へ。企業活動の持つ意味がドラスチックに変化する中、デザイナーが企業経営により深く、より広く関わるべき本当の理由とは。2023年度にグッドデザイン賞の審査委員長に就任し、アート、広告、テクノロジーなど多彩な要素を縦横無尽に結び合わせ、クリエイティブディレクターとして数々のビッグプロジェクトを成功に導いてきたパノラマティクス主宰・齋藤精一氏に、企業内のデザイン組織のあるべき姿を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/まくらあさみ)
社会に寄り添うソリューションをデザインで生み出す
──企業経営にデザインを活用する動きが広がっているといわれます。齋藤さんから見て、その実感はありますか。
デジタル系のベンチャーはもともとそうした傾向がありましたが、近年、大企業に「デザインを重視しよう」という意欲を強く感じています。大量生産・大量消費の時代が終わりを告げ、企業のバリューは「社会的意義」で測られるようになりました。すると、製品というモノだけではなく、どんな材料を使うか、どこからどのように調達するか、どんな働き方をするかといった「モノの背後の取り組み」までブランド価値に含まれるし、株価も左右します。
大きな組織で、部署や立場を超えて一貫性のある取り組みを続けるためには、最終的に目指すべきゴールを「北極星」として分かりやすく示さなくてはなりません。そこで、異なる要素を「つなぐ」機能を持つデザインが役に立つ。そんな意識が経営者に広がっているのでしょう。
──「モノからコトへ」というトレンドの中で、デザインの重要性が高まっているということですね。
「モノからコトへ」といっても、本来両者は別物ではありません。製品のデザインの背後には必ず取り組みのデザインがあるし、取り組みのデザインの先には製品やインターフェース、グラフィックのデザインが必要になる。
僕はデザインの役割を「社会を観察・考察し、それに対するソリューションを持つこと」だと考えています。大量生産・大量消費の時代は、マスに向けて最大公約数的なソリューションを提供することが大事だったので、モノだけにフォーカスした慣例的なデザインにも価値がありました。しかし、テクノロジーが進展し、対象を理解する解像度が大きく上がった今、現実を生きる一人一人の異なる背景まで観察・考察するデザインが求められていると思います。