社内に「活動」を楽しむファンダムを生み出す
──経営の一員としてCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)を置く会社が増えているのも、デザインによって古い仕組みを打破しようという動機があると思います。
「変えよう」という問題意識はどの企業にもあるんですよね。ただ、せっかくCDOを立てても、デザイン部門と経営企画部門あたりに閉じてしまっている限り、他部署からは「またあいつらだけで何かやってるわ」って冷めた目で見られて、全体としては何も変わらない。
会社の仕組みを変えるためには、全ての組織を巻き込む必要があります。そのためには理屈や思考を振りかざすのではなく、みんなが参加できて、くだらないテーマに見えても高く跳べる機会が必要な気がしていて……。最近、部品とか金型とかを作る昔ながらのものづくり企業の人から、NHKの「魔改造の夜」に出演したいって声をめちゃくちゃ聞くんですよ。何かしらみんなが熱くなれる「活動」が求められているのではないでしょうか。
──「活動」ですか。
政治哲学者、ハンナ・アーレントは、人間の営みを「労働」「仕事」「活動」の三つに分けています。それでいうと、会社で過ごす時間の大半は「労働」ですよね。もっと「活動」が要る。それを立ち上げるのもCDOの役割じゃないかと思っています。
最近面白いと思ったのがヤマハ発動機で、社内に「森マウンテンバイククラブ」っていう部活があるんですよ。マウンテンバイク(MTB)好きが集まった趣味のクラブなのですが、そのメンバーがコロナ禍の最中に、静岡の山中(静岡県周智郡森町)を、地元住民や森林組合とも協力しながらコツコツと開墾して、手弁当で本格的なMTBコースを造っちゃった。さらには林野庁から助成を受けて法人化して、「ミリオンペタルバイクパーク」として営業するまでになった。
ヤマハ発動機は、超本格的な電動アシストMTBを造っているし、世界で初めて電動アシスト自転車のモーターを作った工場も森町にある。そんな場所に、森林資源を有効活用する施設が生まれて、地域を巻き込んで発展していく──。社内では「副業」扱いだそうですが、個人的には、とてつもないバリューを生み出す可能性を秘めていると思っています。この取り組みには、同社のクリエイティブ本部長がクラブ顧問となり深く関わっているのですが、こうした活動をCDOと呼ばれる人たちがリードして、会社の中でもっと広がっていくといいですよねぇ。
──実践を通じてパーパスやビジョンを問い直す場にもなりますね。
僕はこういう「社会を良い方向に動かす活動」を、クリエイティブアクションと呼んでいます。熱狂的な「推し」を持つ人の集まりを「ファンダム」といいますが、クリエイティブアクションは、社内にファンダム的なコミュニティーを生み出すことにつながると思っています。
先ほど「率直に話すのが大事」と言いました。本音を言い合える関係になるには時間が必要ですが、いったんそういう関係ができれば説明コストが限りなくゼロになる。それがまさにファンダムで、同じ哲学を当然のように共有しているので、一瞬で実践論に集中できるのです。会社の中にもファンダム的なコミュニティーが必要だし、役割や役職じゃなく、人間性で見られる場面が増えれば、会社全体のクリエイティビティが上がるのではないでしょうか。(後編に続く)