「率直な意見を言う」のが上流に食い込む近道

デザイン組織の「活動」で、会社のクリエイティビティを最大化するSEIICHI SAITO
パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー) 主宰
1975年神奈川県生まれ、東京理科大学理工学部建築学科卒。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。Omnicom Group傘下のArnell Groupにてクリエイティブ職に携わり、03年の越後妻有アートトリエンナーレでのアーティスト選出を機に帰国。フリーランスのクリエイターとして活躍後、06年ライゾマティクス(現:アブストラクトエンジン)設立、16年よりRhizomatiks Architectureを主宰。20年組織変更によりRhizomatiks Architectureは、Panoramatiksと改め、俯瞰的な視点でこれまで繋がらなかった領域を横断し組織や人を繋ぎ、仕組みづくりから考えつくるチームを立ち上げる。現在では行政や企業などの企画や実装アドバイザーも数多く行う。18年から22年までグッドデザイン賞審査委員副委員長、23年から審査委員委員長。20年、ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。25年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。

──デザインの「観察・考察」は、一般的なマーケティングリサーチとどう違うのでしょうか。

 一番大きな違いは「根底から否定できる」ことだと思います。マーケティングって、都市伝説的な仮説を暗黙のうちに前提としていることが多くないですか? 「GDPは上がり続ける」とか「企業は成長し続ける」というような。そこでちゃんと現実を見て「いや、浮きも沈みもするし、平らにもなる」と言えるのがデザイナーだと思います。

 2023年度のグッドデザイン賞では、パナソニックの電動シェーバー「パームイン」が金賞を受賞しました。従来のシェーバーとは形状も体験も大きく異なる手のひらサイズの製品で、デザイン部門の主導で生まれたそうです。既存の前提を疑ってかかって、新しい軸を打ち出せることはデザイナーの強みであり、デザインをリスペクトする会社だからこそ出せた製品だと思います。

 これを続けるためには、外部の視点から率直に「自社の意味は?」とか、「自社の製品の意味は?」と評価しないといけない。デザイナーが経営に対して直接的に意見を言うポジションにいることが大事なのです。でも、企業に属しているデザイナーの多くがそんなイニシアチブを持っていない。結局「前提条件をクリアしたA・B・Cの3案から一つを選んでください」みたいなことしかできなくなっています。

──企業内のデザイナーが、もっと本質的な役割を果たすためには何が必要でしょうか。

 よく「開発の上流に行け」とか言われますが、無理に上流に行こうとするより「率直な意見を届ける」のが近道な気がします。僕自身、06年にライゾマティクスという会社を立ち上げたときは、プロダクションのつもりでした。でも、クライアントが「この通りに作ってください」と言って持ってくる設計図に疑問が湧く。その通りに作っても正解にならないことが直感的に分かるわけです。それを率直に伝えているうちに、プランニングとかプロデュースまで求められるようになりました。

 あるメーカーから新製品のメディアプロモーションを依頼されたときも、ユーザー視点で見ると製品に全然魅力がないことがありました。小型化とか性能アップとか、強みとされているものが全て「当社比」で、市場にはもっといい商品が安く出回っていた。そんなの、広告のクリエイティブを工夫するだけ無駄ですよね。だから「媒体の予算を全部クーポンにして配りましょう」と提案しました。最初はギョッとされましたが、ちゃんと計画は見直され、次の案件からは開発の早い段階から呼ばれるようになりました。

 僕も別に上流に行こうとしていたわけじゃない。でも、ボタンの掛け違えがどこで起きたかを探っていくと、自然と源流に近づいていく。企業内のデザイナーにもそんな動きが求められているのではないでしょうか。