「NULL」が発表されないことが引き起こす“錯覚”

 これらの研究をおこなった科学者はこんなふうに考えただろう。「小さな研究だったし、小さな効果はデータのノイズのせいだったのだろう。考えてみれば、この研究で効果があると期待した私がばかだった。この研究を発表しようとする意味がない」。

 ただし、同じようにサンプルが小さい研究でも、ノイズの多いデータを使って偶然、大きな効果を示した場合は、このように後づけの理屈で考えることはないだろう。むしろ積極的に、ポジティブな結果を学術誌に投稿する。このダブルスタンダードは、確証バイアス(既存の信念や願望に沿うように証拠を解釈すること)に陥りやすい人間の傾向にもとづくもので、出版バイアスの根源でもある。

 図2Aではなく図2Bにもとづいてメタアナリシスの全体的な結論を考えると、出版バイアスがいかに科学文献を混乱させているかがわかる。逆さにした漏斗から効果の小さい研究が取り除かれると、メタアナリシスで示される全体的な効果は、正当と思われるものより大きくなる。そして、効果の重要性を誇張し、実際には存在しないものを存在するかのように錯覚するときもある。NULLの研究やあいまいな研究を発表しないことによって、研究者は科学文献を読む人に目隠しを強いている。

(本稿は、『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』の一部を抜粋・編集したものです)