宇宙人の数学と
地球人の数学は同じか?

 本書で最も驚かされたのは、須藤氏がこれほど過激な数学的実在論者だったとは……ということである。実は、須藤氏が日本を代表する宇宙物理学者であることはよく存じており、私が副会長を務めるJapan Skeptics(「超自然現象」を批判的・科学的に究明する会)の総会で講演していただいたこともある。須藤氏は、数学的予測と観測的事実の合致という驚愕を何度も経験してきたからこそ、「宇宙=数学」を実感するようになったに違いない。

 論理学の天才クルト・ゲーデルも、セーガンや須藤氏と同じように、数や集合などの数学的対象が「人間の定義と構成から独立して存在する」と信じていた。ところが、彼と並ぶ数学の天才フォン・ノイマンは、「人間の経験から切り離したところに数学的真理という絶対的な概念が不動の前提として存在するとは、とても考えられない」と断言している。

 ノイマンの「数学的経験論」によれば、数学は人間の脳構造が発明した言語であり、人間はその言語を通して宇宙を認識している。地球外知的生命体が独自の進化を遂げた機能で宇宙を認識している以上、彼らの「数学」は人間の「数学」とは根本的に異質という可能性を指摘するのがノイマンの立場である。

 読者は、どのようにお考えだろうか?

『宇宙は数式でできている』のハイライト
本書で繰り返し紹介してきた天文学研究史における経験事実は、「・観測されている天体さらには宇宙の振る舞いそのものを記述する数式が存在している」「・その数式を用いて予言された現象は、どれほど可能性が低いと予想されようとも、やがては驚くべき精度で実際にこの宇宙で起こっていることが確認されてきた」の2点に要約されます。そして、この驚くべき事実を説明するもっとも単純な解釈は、数学的な論理体系と実在する宇宙は同じものであるという過激な可能性です。(225頁)
須藤靖(すとうやすし)1958年生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了。同大学大学院理学系研究科教授。専門は宇宙物理学・宇宙論。著書に『宇宙人の見る地球』(毎日新聞社)や『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)などがある。