天才ノイマンの思想と行動は
多くの分野に影響を与えた

書影『フォン・ノイマンの哲学』(講談社現代新書)

『フォン・ノイマンの哲学』(講談社現代新書)を読んで筆者はこう思う。

 拙著を紹介するのはおこがましいのだが、ぜひ読者に読んでいただきたいのが『フォン・ノイマンの哲学』である。彼は、20世紀を代表する天才の中でも、ひときわ光彩を放っている人物だ。わずか53年あまりの短い生涯の間に、論理学・数学・物理学・化学・計算機科学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学・政治学に関する150編の論文を発表した。

 天才だけが集まるプリンストン高等研究所の教授陣の中でも、さらに桁違いの超人的な能力を発揮したノイマンは、「人間のフリをした悪魔」と呼ばれた。彼は「コンピュータの父」として知られる一方で、原子爆弾を開発する「マンハッタン計画」の科学者集団の中心的指導者でもあった。

 彼の死後、生前の論文を集めて出版された英語版『フォン・ノイマン著作集』は、全6巻で合計3689ページに及ぶ。第1巻「論理学・集合論・量子力学」、第2巻「作用素・エルゴード理論・群における概周期関数」、第3巻「作用素環論」、第4巻「連続幾何学とその他の話題」、第5巻「コンピュータ設計・オートメタ理論と数値解析」、第6巻「ゲーム理論・宇宙物理学・流体力学・気象学」というタイトルを眺めるだけでも、彼の論文がどれほど多彩な専門分野に影響を与えたかわかるだろう。

 その一方で、ノイマンがいかに世界を認識し、どのような価値を重視し、いかなる道徳基準にしたがって行動していたのかについては、必ずしも明らかにされているわけではない。さまざまな専門分野の枠組みの内部において断片的に議論されることはあっても、総合的な「フォン・ノイマンの哲学」については、先行研究もほとんど皆無に等しい状況である。