2008年9月現在で世界での販売台数が3455万台に達した家庭用ゲーム機Wii(任天堂)。今や、さまざまな企業・機関が何らかの形でWiiにコンテンツを提供し、ビジネスの創生や進化を図っている。

 こうした動きにおいて注目されるのは、Wii向けに開発されるコンテンツが、「遊び」ではなく「暮らし」「生活」をキーワードにしたものが増えてきていることだ。

 たとえば、「夢の街創造委員会」が2009年春にサービスを開始すると発表した「出前チャンネル」。Wiiリモコンとテレビ画面を使って出前を注文できるサービスだ。対象となる店舗は、同委員会が運営している出前仲介サイト「出前館」に登録している店舗で、ユーザーは店舗を検索、メニューや配達予想時間などを考慮して注文ができる。注文の履歴や届け先データは保存されるため、次回以降の注文時に手間が省け、各店舗がクーポン券を発行しているため、電話注文より割安になる。

 言うなれば、パソコン操作にも慣れてない層もオンライン注文の利便性が享受できるというわけだ。

 このようなサービスが登場する背景には、Wiiが他のゲーム機とは少々異なった使われ方をしているという事実がある。他のゲーム機のコアユーザーが、デジタルネイティブな若年層であるのに対し、Wiiのユーザーの年齢構成は広範囲にわたり、男女比もほぼ均等。さらには、利用者の約8割強の家庭でリビングルームのテレビに接続されていると言われている。

Wiiの間チャネル
電通と任天堂が共同で配信する動画配信サービス「Wiiの間チャネル」の画面イメージ(発表資料から)

 このようなWiiの特性をきわめて端的に反映しているのが、電通が任天堂と共同で2009年春より配信を開始する動画配信サービス「Wiiの間チャネル」である。Wii本体をインターネットに接続し、「Wiiショッピングチャンネル」から無料の「Wiiの間チャンネル」をダウンロードすれば利用できる。海外展開についても、詳細は未定だが検討中という。

「お茶の間」と「Wii」を合成させた名称からも想像できるように、2社によれば、「リビング(=お茶の間)のテレビの前に家族や友人が集まり、笑顔で楽しくコミュニケーションできる映像体験空間を意味している」と言う同サービス。簡単に作成できる「家族の分身」とも言えるゲームキャラクターのMii(ミー)が存在し、そこで起こるさまざまなイベントを通して能動的にコンテンツを楽しめるような仕組み(内容)を構築する予定だ。

 このサービスのコンセプトは、ズバリ、「家族」「生活」「絆」。任天堂が「誰でも楽しめるサービス」の開発を手がけるとともに、電通は、「生活者との信頼」をキーワードに、賛同する企業の参加を呼びかけるという。

 PS、DSなど、ポータブルなゲーム機の登場は、「遊び」のシーンを大きく変えた。だが、こうしたサービスの登場をみていると、Wiiは、その範疇にとどまっておらず、「暮らし」そのものを変化させることを目論んでいるように思える。

 そう、Wiiをもはや、「ゲーム機」と呼ぶのは、正しくないかもしれない。「一家に一台」の「家電」、それも、「情報家電」だと言っていいだろう。「情報家電」というワードが登場して久しいが、本格的なそれが家電メーカー発ではなく、ゲーム機の世界から誕生したというのは、ちょっぴり皮肉なような気もする。

(梅村千恵)