高校で2022年4月に新しい学習指導要領がスタート。25年度の大学入試では、この新課程で学んだ受験生が初めて受験する。大学入試共通テスト同様に私立大学も入試科目や出題範囲が変わり、これが併願先選びにも影響して私立大の受験地図を塗り替え得る。特集『大学格差』(全20回予定)の#17では、「早慶上理」「MARCH」「日東駒専」「関関同立」「産近甲龍」それぞれの出題範囲を比較し、新課程入試版の併願ラインを探る。(アロー教育総合研究所所長 田嶋 裕)
歴史と数学の出題範囲で
2グループに分かれる
学習指導要領はおよそ10年ごとに改訂される。高校で新課程(新しい学習指導要領)の授業が始まったのは2022年4月。25年4月の大学入学者を選抜する25年度入試は「新課程入試」となり、新課程で学んだ高校生が初めて受験する。
「旧課程の高校生とは『質』が全く違う」と語るのは首都圏の公立高校で教える進路指導教員だ。
「グループワークをして話し合った内容をプレゼンテーションしなさいといった課題を出すと、旧課程の高校生はおろおろするばかり。新課程の高校生は当たり前のように器用にやり遂げてしまう。『教育の力』に改めて感心してしまった」
「主体的・対話的で深い学び」を目標に掲げた新学習指導要領は教育現場で早くもその効果が表れているようだが、新課程入試で何が変わるのか。
端的にいえば、「過大な負担で受験生の二極化が進む入試」となる。受験に必要な「英語」の単語量は、旧課程の1.5倍に増加している。「数学」では、数学科の教員ですら「初めて見た」という統計用語が登場している。
「社会」では、必修科目として「歴史総合」「地理総合」「公共」を設置。各科目の代表的な教科書のページ数を合計すると746ページに及ぶ。「歴史総合」は日本史と世界史が合体したような教科書で、日本と世界の近現代を学ぶ。双方の理解がなければ、問題を解くことはできない。
負担は大学側にもかかる。社会科専門予備校の教員によると、「日本の大学の歴史学科や教育学部の歴史教育・研究は、実は『歴史総合』に対応していない」。「世界がどのように近代化を果たしていったのかシステム的に考察するのが『歴史総合』で、従来の日本史教員、世界史教員では教えることができない。誰が授業を担当するのか、多くの高校、予備校で教員探しに苦労しているようだ」。
大学入学共通テストの受験では、「国語」の「実用文」対策も必要。法律の条文や契約書の書面などが題材になるとされている。「理科」は、新課程で細部が変更される。旧課程の参考書や問題集は使えないので注意が必要だ。
実技科目だった「情報」は受験科目に。国公立大学の受験生は「5教科7科目」ではなく「6教科8科目」の学習が必要となる。「共通テストの模擬試験が1日では実施できなくなった」と大手予備校の情報担当者。「高校生も模試のスタッフもへとへとになっている。たくさんの学習量をこなせる高校生とこなせない高校生に二分化された状況だ。学習指導要領の検討会議で、各教科の要望を受け入れていったら、カリキュラムが爆発的に膨れ上がったと聞いている」。
共通テストはもちろんのこと、私立大学の入試も新課程に応じた出題範囲へと変わる。
25年度入試の一般選抜について、各私立大では出題科目を発表しており、文系では「歴史総合」を出題するか否か、理系では「数学B(統計的な推測)」を出題範囲に含めるか否かで、2グループに分かれた格好だ。
次ページでは、「早慶上理」(早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、東京理科大学)、「MARCH」(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)、「日東駒専」(日本大学、東洋大学、駒沢大学、専修大学)、「関関同立」(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)、「産近甲龍」(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)それぞれの出題範囲を比較、新課程入試版の併願ラインを探る。