大学 地殻変動#6Photo:PIXTA

自己推薦型の「総合型選抜入試(旧AO入試)」では、併願の詳しい攻略法が一般に知られていない。受験を指導する高校側が併願に消極的だったり、入試形式が複雑だったり、受験ルールに本音と建前が存在したりするためだ。併願先をどのように組み合わせればいいのか。高校が調査書を1通しか発行してくれない場合、どうしたらいいのか。特集『大学 地殻変動』(全21回)の#6では、この二つに答えを出した。(ルートマップマガジン社取締役・編集長 西田浩史、ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

「偏差値に基づく併願戦略では
うまくいかない」

 自己推薦で受ける「総合型選抜入試(旧AO入試)」を実施する大学が増えるにつれ、総合型選抜で複数大学を併願する受験生は増えてきている。しかし、どの大学を併願すればいいかについての詳しい攻略法は一般に知られていない。その理由は二つある。

 一つは、第1志望であることや合格したら必ず入学することを出願要件にする大学があり、それが他大との併願を認めない「専願」なのか否かがあいまいだったり、要件が複雑だったりするためだ。

 高校によっては出願時の必須書類である調査書を「第1志望先の分1通しか発行しない」「第1志望先が不合格になったら2通目を出す」といったところもある。そこまで厳格ではなくても、「入学を強く望む者」を前提に受験機会を与える総合型選抜で併願戦略を手ほどきするというのは、高校側は建前上やりにくい。

 もう一つは、一つの大学にさまざまな入試形式の総合型選抜があり、かつ翌年にはまた形式の種類やルールが変わったりするので、併願先の選定には骨が折れること。高校側が併願大学選びまで指導するとなると、膨大な手間がかかってしまう。

 発展途上でスタイルがまだ固まっていないこともあって、一般選抜入試に比べて総合型選抜は、合格者数に対する志願者数の倍率(志願者数÷合格者数)がトータルで見て低い。併願すれば、さらに合格のチャンスは高くなる。

 ただし「偏差値に基づく併願戦略ではうまくいかない」と塾関係者は言う。一般選抜のように、偏差値上での格上から滑り止めまでを、系統の異なる学部を含めてじゅうたん爆撃のように大量に受験するというのは得策ではない。総合型選抜では「高校時代の活動を通じた志望理由、自分の研究テーマと大学で研究したいことなど、受験生と大学とのマッチングが大切。併願先もマッチングに沿って組み合わせる必要がある」(塾関係者)という。

 総合型選抜における併願の組み合わせとしては例えば、慶應義塾大学の総合政策学部、環境情報学部(以下、慶應SFC)が行う「AO入試」、同大法学部の「FIT入試」、中央大学法学部の「チャレンジ入試」がある。慶應大はいずれも「第1志望であること」が出願要件で、中央大法学部は他大との併願を認めている。

 総合型選抜では、大学入学後あるいは社会に出て何をやりたいのかといった志望理由を突き詰め、志望する学部系統の軸を固める必要がある。「煮詰めた志望理由書は他系統の学部には通じないが、同系統の併願先には応用できる」と前出の塾関係者。その点で、先に挙げた大学で併願を組み合わせるのは、政治学や政策学を学びたい学生にうってつけである。

 慶應SFCは、さまざまな分野を学ぶ学際教育なので、いろいろな軸を持つ者が受けやすい。その上、募集人数が各学部150人と多く、総合型選抜の中でも特に人気が高い。おのおのの軸に応じて併願パターンは文系、理系からスポーツ系まで多岐に広がる。

 では、各軸において、私立難関大学群である早慶・MARCH(早稲田大学、慶應大、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大、法政大学)の中で併願するパターンにはどんなものがあるのか。

 次ページでは、2024年度入試の募集要項や試験日程に基づいて併願の組み合わせを厳選、「理系トリプル併願パターン」「国立大とのダブル併願パターン」「文系ダブル併願パターン」「芸術系ダブル併願パターン」を公開する。また、併願の障壁になる高校の調査書発行問題について、本音と建前を踏まえた対処術を伝授する。