失敗を糧にする前に
全力で負けることの大切さ
戦略的に誤っていれば、いくら戦術的に勝利しても最終的に勝つことはできない、とは戦理としてよく言われる。しかしながら、戦略的に誤った島津家は戦術的な「退き口」の戦いぶりによって滅亡を避けられた。負けるとわかっているならば、負け方には意味があるのである。
そしてその負けいくさを支えたのは、もはや人間的な力でしかない。幾人もの家臣が島津義弘を逃がすために「我こそは維新入道(島津義弘)なり!」と大音声を響かせ敵陣に向かって言ったのは、島津義弘が普段から家臣を大切にしていたからにほかなるまい。
負傷した将兵を、自らの膝に頭をのせてやり薬を塗るなど、豪快な人柄とは別な、優れた人間性が垣間見える。
ちなみに前述のペリリュー島での戦いで見事な指揮を執った中川州男大佐は「絶対に無駄死にするな」と命じ、弾や食料が尽きると部下を抱きしめて「すまない、すまない」と激励を続けた。その指揮は戦術においてのみならず、人間として教えられることが多い。
負けるとわかっているなら、負け方には意味がある。失敗を糧にする前に、全力で負けることの大切さを「退き口」は教えてくれる。