個人への叱責の内容を複数の人をccに入れたメールで送るのはキケン!

【事例】
20代男性A。所属している部署では、会議の翌日までに議事録を送るルールがある。Aはうっかりミスが多く、議事録を取るのを忘れたり、議事録の送付が遅くなったりしていた。そのことについて、上司から、「Aは毎回議事録を送るのが遅れる。今後は気をつけるように」とチームメンバー全員がccに入ったメールを送られた。個人だけに言えばいい内容なのに、吊し上げられた気分になった。

【解説】
メールには宛先以外の関係者に対しても同じメッセージを送信する「cc」という機能があります。

複数名がccされたメールで叱責する行為は、「周囲が見たり聞いたりできる状況で叱責する」行為とかなり近い行為といえます。

複数名をccに入れて叱責のメールを送信する行為は、その対象者や内容のいっさいが、周囲の人間にそのまま筒抜けとなることを意味しているからです。

叱責の内容は基本的に本人だけに伝わればよい

社員に対する叱責は、通常はその社員の問題行動を正すために行われます。

そのため、叱責の内容はその社員本人のみに伝われば目的を達することができ、必ずしも他の社員に対して周知する必要はありません。

また、部下からすれば、上司からの叱責は不名誉で恥ずかしいことと考えるのが一般的です。

周囲に知られたり聞かれたりするのは、自尊心を傷つけられたり、羞恥心を抱いたりといったネガティブな感情を強く覚えてしまうものです。

そのため、周囲が見聞きできる状況で叱責するという手段をとる必要はなく、また、そうすべきでもないので、その叱責行為が客観的に許容されるのは難しいでしょう。

したがって、周りの人に聞こえるような場所で叱責することは、周囲にただちに叱責内容を共有しなければならないような特別な事情がないかぎり、業務上適正な範囲を超える違法なパワハラとして評価される可能性は十分にあると考えます。

メールはより社員の自尊心や羞恥心を刺激する可能性が高い

メールでの叱責は、内容が可視化され、かつ記録として残るため「周囲が見たり聞いたりできる状況で口頭で叱責する」行為よりも、社員の自尊心や羞恥心を刺激する程度が大きいといえそうです。

上記の点をふまえれば、複数名をccに入れてメールで叱責することは、より慎重とならざるをえませんし、業務と関係のない叱責であれば、業務上適正と認められる余地はまずありません。

また、業務と関係する事柄に対する叱責であっても、周囲に対して叱責内容をメールで共有するべき理由がない場合は、やはり許容されにくいでしょう。

そのため、今回のケースのようにccに複数名がふくまれる状況で、個人を厳しく叱責する行為は、「業務上適正な範囲を超えるパワハラ」との評価を受けやすくなると思われます。

(※本稿は『それ、パワハラですよ?』の本文を一部抜粋、再編集した内容です。)

[著者]梅澤康二
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)

2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。