このとき、株主がこの株式を新しい株主に売り渡したとしよう。新株主の企業に対する期待利益率も10%で変わらないとすれば、配当は8円、割引率は10%だから、新株主が株式購入時に支払う対価は80円となる。

 この株式譲渡後の状態を新株主の立場から眺めると、次のようになっている。

 80円で購入した株式から毎年8円の配当を受け取れる。このため、取得した株式は10%の利益率(念のために書けば、8/80)を生み出しており、10%という期待利益率を満たしている。

 つまり、もしも貸借対照表上の純資産が時価評価され、80円に書き換えられるのなら、PBRは1倍となる。

 以上から株価変動の意味が明瞭になる。すなわち企業が営む事業に対して株主が長期的に期待する利益率(資本コスト)と企業の実際の事業利益率との関係に基づき、株価が形成され、変動していく。

 この結果、株主の期待利益率と、企業が現実に稼ぐだろう事業利益率とが一致する。株価の変動によって、見かけ上のPBRが低下するか、もしくは上昇するのだが、もしも会計上の規則を無視して純資産を株式の売買がある度に時価評価していくのなら、PBRは常に1倍である。

PBRが1倍割れの企業の利益率は
将来も低いままの可能性が高い

 現実はというと、純資産が時価評価されないため、日本の上場企業の半数前後はPBR1倍割れにある。個人が株式での運用を考える場合、このPBRの情報を使わない手はない。