A123 Systemsは全世界の注目を集めた新型のリチウムイオン電池開発する米ベンチャー企業だった。それが昨年の10月、突然に会社更生法の適用を申請。連邦政府は同社に249億円(1ドル=100円で換算)の債務保証をしていた。
同社は2001年に、当時MITの教授だったYet-Ming Chiangが独立して創業したベンチャーだった。主力商品は従来のリチウム電池の10倍の出力を持ち、長寿命で、かつコスト・パフォーマンスが高く、評判の新型電池だった。売り上げも倍々ゲームで伸び、2009年にはNASDAQに上場している。
2009年といえば、オバマ氏が大統領に就任した年だ。大統領はクリーン・エネルギー産業を育て、米国の雇用を拡大することを重点政策の一つに掲げていた。そこで、成長著しいベンチャー企業に連邦政府が直接資金支援する施策を新たに採用したのだ。従来の施策は2~3億円未満の政府助成金の交付であったが、成長著しい企業には100億円以上を支援することにした。A123 Systemはこうした支援の対象になった。
A123 Systemsのほかには、Solyndra(ソリンドラ)という新型ソーラーパネルを開発していたベンチャー企業に527億円を貸し出している。同社はこの資金を使って米国内に工場を建設したが、欧米を中心とする景気悪化によるパネル需要の急速な減退、安い中国製品の流入によるパネル価格の大幅下落(75%の下落)によって資金回収ができなくなった。同社は融資を受けた1年半後の2011年8月に倒産。貸し付けた資金は全額回収不能になった。
これに続いて起きたのがA123 Systemsの倒産事件だった。連邦政府は焦った。何とか支援金を回収できないかと、同社を買収してくれる企業を探した。米国の自動車部品企業Johnson Controlsが事業の一部を125億円で買い取っても良いと申し出てきたが、これでは政府の貸付金249億円全額を回収するのは難しい。次に名乗りを上げたのが中国の自動車部品企業、万向集団(Wanxiang Group)であった。オファー額は465億円だった。
しかし、これには連邦議会が反対する。米国の安全保障が脅かされる、というのがその理由だったが、真の理由は最先端技術が中国に渡ってしまう懸念ではなかったろうかと推測される。政府は、国民の税金を使った貸出金の回収を優先させるか、それとも最先端技術の国内温存を優先させるかの難しい選択を迫られた。そこでA123 Systemsの事業のうち米軍に関係する部分を他の米企業に買収させ、残りを公開入札にかけることにした。その結果、万向集団が256億円で落札した。政府の貸付金はかろうじて損失を免れた。