北方領土返還交渉に民間の開発協力
大きく前進したかに見える対ロシア外交

 4月下旬からゴールデンウイークにかけて、安倍首相はロシアや中東3ヵ国を歴訪する積極外交を展開した。その成果の1つに、ロシアとの共同宣言がある。

 安倍首相自身がロシアのプーチン大統領と、北方領土などの懸案事項を含む多くの問題について長時間にわたる会談を行った。その結果、北方領土の返還交渉や両国の外務・防衛担当閣僚による安全保障にかかわる協議、さらには極東地域における民間部門の開発協力など、広範囲な合意に漕ぎ着けた。

 今回の日ロ共同宣言は、今後の本格交渉のスタートに過ぎないとはいうものの、交渉の足がかりをつくったことは評価されるべきだろう。ただ、共同宣言の発表に浮かれることはできない。ロシアがわが国との交渉を積極的に推進する背景には、それなりの下心があるからだ。

 米国を中心とした“シェールガス革命”によって、ロシアの主要輸出品である天然ガスの価格が下落することが懸念される。ロシア経済は、天然ガスや原油など天然資源の輸出依存度が極めて高い。虎の子であるそれらエネルギー資源の価格が下落することは、ロシア経済に重大な影響を与えることが考えられる。経済の低迷が明確になると、国際社会での発言力が低下することも懸念される。

 そうした状況を回避するためにも、ロシアとしては、現在欧州地域に偏っている天然ガスの輸出先を、わが国やアジア諸国に拡張することを狙っている。ロシアはわが国にすり寄る姿勢を示すことで、極東地域の開発のための資金や技術力を引き出すことを考えている。ロシアが、一筋縄で行くような相手でないことは間違いない。

 現在のロシア経済を一言で表現すると、“天然資源依存型”と言うことができる。輸出品目の内訳を見ると、天然ガスや原油などのエネルギー関連製品が全輸出の7割以上を占めている。