この問題の影響により政府は、年金の仕組みに問題があると思われたくないため、「給付抑止」をタブーとして封印する可能性があります。同様に、報告書の重要ポイントである「自助努力」までもが無視される可能性があります。それどころか、これらの重要事項の議論をすることさえ難しくなってしまいました。
橋本之克 著
実は「2000万円の不足」以外にも、問題は多くあります。例えば、自助のために積み立てるお金がない人々の問題です。日本の納税者の6割は所得税率が最低限の5%、即ち課税対象所得が195万円以下です。こういった人をどう支援するかという問題があります。
ところが今回の騒動によって、高い所得を得ながら年金をもらい続ける高齢者への給付を停止する、といった本来必要な改革が停滞しかねません。現在の公的年金制度が「失敗」ではないと強弁するために、あるいはヒステリックなクレーム層をかわすために、重要な議論がストップしてしまうのです。
年金制度が順調でないことは、既に多くの人が知っています。年金だけで十分暮らせると考える楽観的な人は多くないはずです。自助努力が必要なことくらい、言われなくてもわかっているでしょう。そういった「普通の人々」は、報告書の内容にも違和感を覚えないはずです。