自分では用意できない金額を
提示された人々が不安を感じた

 もう1つ、2000万円という数字がなぜ不安を煽ったのかも疑問です。これは「アンカリング」の影響です。アンカリングは、先行する何らかの数値によって、その後の判断が歪められるものです。

 ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーは、これを実証する以下の実験を行いました。「国連加盟国のうち、アフリカの国の割合はいくらか」を対象者に尋ねる実験です。ただし、その前に1つの質問をするのです。半数には「アフリカの国の割合は65%よりも大きいか小さいか」と尋ね、残りの半数には「アフリカの国の割合は10%よりも大きいか小さいか」尋ねます。

 その結果、65%と比較した対象者における回答の中央値は「45%」でした。10%と比較した対象者は「25%」でした。つまり、事前質問での数字がアンカーとなって、65%と比較した人のほうが10%と比較した人よりも高い数字を回答したのです。

 今回の騒動においては、独り歩きした「2000万円」という数字を評価するにあたって皆、自分で用意できるお金、即ち預貯金額を頭に思い浮かべました。この時点での自分の預貯金額がアンカーとなります。