図表3に示す平均給与の推移と比較すると、給与の成長率が高い時代(70、80年代)には負担率が上がり、給与の成長率が低い時代(90年代以降)には負担率が下がるという傾向が見られる。
90年代には大規模な所得減税が頻繁に行なわれた。
94年には5.5兆円という大規模な「特別減税」が行なわれ、その後も、95年からは制度減税や特別減税として、さらに97年に引き上げられた消費税に対応する先行減税の形で96年も継続された。
97年に特別減税はいったん打ち切られたが、98年には金融システムの動揺に対する安定化策として、当初分として2兆円規模の定額減税が実施され、さらに4月に2兆円の減税が上乗せされ、99年にはこれらを恒久化するものとして「恒久的な減税」が導入された。
仮に、こうした減税が行なわれる以前の90年ごろの水準が適切だと考えれば、負担率は90年代にそれより下がったので、いま、それをさらに下げる必要はないという考えもあり得るだろう。
また今後の日本では人口の高齢化が進み労働力人口が減少する半面で、社会保障制度の受給者や社会保障支出が今後も増加することからも負担率引き下げは慎重に考えるべきという議論も成り立つ。
ただし、消費税の税収はこの期間に増えているので、税収全体の見地からすれば、90年代後半の所得税減税は正当化できるという考えも一方ではあるだろう。
このように、いかなる水準が基準として適切な水準かという問題は、簡単には答えが出せない。
「103万円の壁」見直しで注意すべき四点
就業抑制問題とインフレ中立化は区別を
今回の基礎控除引き上げの問題は、年収が「103万円」を超えると所得税がかかるようになるという「年収の壁」の問題として議論されている。
基礎控除に一定の枠があるため人々は、年収がこの額を超えないように就業時間を調整する。つまり、「壁」が就業時間に対する制約となっている。そこで所得を増やすためには、これを引き上げて、働ける時間を増やす必要があるというのだ。
ただこの見直しの議論については注意すべき点が四つある。