国民民主党が求めている所得税の基礎控除などを103万円から178万円に引き上げる所得税減税が話題である。少数与党の自公連立政権は、28議席の国民民主党の言うことを聞くしかないから、178万円になるかどうかはわからないが、相当の引き上げになることは間違いないだろう。これに対して、財務省は7.6兆円の税の減収になり、豊かな人がより多くの減税になるので不公平だと反対している(「消費減税、実現には難題」日本経済新聞2024年10月31日)。一方、国民民主党の玉木雄一郎代表は、7.6兆円の減収になるということは、それだけ国民の手取りが増えることだと反論している。財務省の反対により、基礎控除引き上げが国民の税引き後所得増、つまり手取りを増やすか、政府の税収の減収かという議論に集中してしまっているようだ。しかし、基礎控除引き上げの本来の目的は、働きたい人が働くと損する制度を改めることだ。このことを説明したい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
基礎控除を引き上げても
税収全体はそれほど減らない
本論の前に、豊かな人がより多くの減税になるのは不公平だという議論に一言コメントしておく。そもそも減税とは税金を減らすことで、豊かな人はより多くの税金をすでに払っているのだから、減税すれば豊かな人がより多く減税されるのは当然である。それを不公平だというのは私には理解できない。仁徳天皇が「民のかまどは賑わっておらぬから税を取らぬ」とおっしゃったとき、より多く税を取られていた民はより多く減税されたはずだ。
年収の壁には、103万円だけではなく、106万円、130万円の壁もある。
そもそも、なぜ103万円の壁があるかというと、親の扶養に入っている18~22歳の若者は、年収103万円を超えると親の扶養からはずれ親は扶養控除を受けることができなくなるからだ。