11月15日に開催された、損害保険業界の構造的課題を議論する金融審議会(首相の諮問機関)。4回目となる今回は、企業内代理店や比較推奨販売など多岐にわたる論点について議論が行われた。そこで連載『ダイヤモンド保険ラボ』の本稿【後編】では、比較推奨販売や自主規制機関の議論の中身について詳報する。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)
自動車ディーラーで長く続いた商習慣
「テリトリー制」にメス
Q 今回は、前回の『損保業界の企業内代理店「規制強化と適用除外」、金融審議会の議論を徹底解説!【前編】』の続きです。11月15日に開催された金融審議会(首相の諮問機関)のワーキンググループ(WG)の4回目で議論された「比較推奨販売の適正化」が、損害保険業界で話題になっていますね。
A 比較推奨販売は、2016年5月に施行された改正保険業法で制定されたものですが、正直なところ、当時の損保業界にとっては対岸の火事でしたからね。あくまで、「生命保険業界の乗り合い代理店に関する規制だ」との認識でした。
Q ところが、損保業界にモロに降りかかってきたわけですね。
A そうですね。特に問題になっているのが、自動車ディーラーにおける「テリトリー制」です。
Q ディーラーが店舗ごとに特定の損保1社を指定し、顧客にその損保の商品を推奨する。その一方で、指定を受けなかった損保の商品は原則として顧客に提案しないという損保業界の慣習ですね。
A その通りです。大規模な乗り合い代理店である自動車ディーラーでは、損保各社がテリトリーを獲得するために、さまざまな便宜を図る競争を行っていました。自動車の購入やイベントの手伝い、洗車などを損保社員が行ったり、出向している損保社員がバックオフィス業務などを代行したりと、通常の営業協力を超えた便宜供与でテリトリーを奪い合っていました。
Q 営業協力はどの業界にもありますし、否定する気はありませんが、だいぶ行き過ぎていたということですね。ちなみに、テリトリー制はいつ頃から始まったのですか。
A 東京海上日動火災保険によれば、1970年以前から存在していたそうです。かつてのモータリゼーションに伴い、ディーラーの数や募集人の数が急速に増えました。そうした中で適切で正確な保険商品やサービスを提案するには、ディーラーの店舗ごとに担当損保を決めることが合理的と考えられ、「教育担当損保制=テリトリー制」が導入されたと言っています。
当初は顧客のためにという目的で導入されましたが、いつしか数字を上げるためにテリトリーを奪い合うようになってしまっていたわけです。
Q 本来の目的は何なのか、ということを常に問い直す必要がありそうですね。そこで今回、比較推奨販売を適正化するに当たり、テリトリー制が大きく見直されることになったわけですが、WGではどのような議論が行われたのでしょうか。また、自動車販売業界から厳しい意見が寄せられたようですが、どのような内容だったのでしょうか。