サプライヤーも含めた
自動車産業の復活を願う

 次に指摘したいこと。なお、以下は記者や編集者は周知のはずで、知らないことはないと思う。ただ、一般読者の誤解が広がるのではないかという懸念だ。

 前提として法律の話をしたい。最近よく話題になる独占禁止法の「優越的地位の濫用」についてだ。一般的に、「大きな企業が、小さな企業に強く交渉をしたら、優越的地位の濫用だ」というイメージがある。しかしこれは誤りだ。正確には、正常な商習慣に照らして不当かどうかの判断や、実際に優越的な地位にあったかどうかが問われる。非常に微妙な問題だ。

 そこで日本では、独占禁止法だけでなく、1956年に独禁法の特別法として「下請代金支払遅延」(いわゆる下請法)ができて、より柔軟に発注者側・親事業者の「買いたたき」を勧告できるようにした。

 しかしこの下請法の対象となるのは、自動車メーカーにとっては、あくまで資本金3億円以下の中小サプライヤーを指し、さらに物品の製造「委託」などの場合に限られる。

 ダイヤモンドの特集では、サプライヤー全般を「下請け」としている。なので、取引を行う全サプライヤーが下請法の対象となるかのように勘違いをしている読者が多いのではないか、ちょっと心配になった。実際には、自動車メーカーの主要取引先で下請法の対象となるような資本金3億円以下の中小サプライヤーは、ほとんどいない。

 また、下請法では発注者側・親事業者に課された11項目の禁止事項がある。「買いたたき」「下請代金の減額」などだ。これらを記事内では「優越的地位の濫用と感じた自動車メーカーの行為」として、自動車メーカー3社をカウントしているが、回答側の内訳として下請法対象企業かそうではないかを記載すると印象が変わるはずだ。

 特集内では『直ちに下請法違反とはいえない』とか『下請法が禁じる「買いたたき」に該当することもあり得る』といった表現が散見されるが、それも同じく、そもそもその取引先は下請法対象企業なのだろうか。

 なお、これらは記事が間違っているという指摘ではなく、読者が誤解するのではないか、という懸念点だ。例えば、「金型の無償保管」を記事では問題視しているが、公正取引委員会が勧告を行った実例は、「下請法対象企業に対して」「自社が有している金型を貸与している」という極めて限られたケースである。

 筆者が主張したいのは、下請法の対象でなければ何をやってもいいとか、公正取引委員会が勧告していなければ何をやってもいいという話ではない。そうではなく、これだけ面白い特集なので、読者に誤解を与えることなく、次回はさらに深掘りした特集を期待したいということだ。

 当たり前の話だが、日本の自動車産業は、サプライヤーも含めて成り立っている。大手の経営難やリストラも取りざたされている中で、サプライヤーも含めた日本の自動車産業の復活を願うばかりだ。