一方、事業ポートフォリオの変革を進めていくには、守りのガバナンスも重要となる。冒頭で触れたように、ビジネス環境におけるリスクは多様化し、複雑化している。これは、事業ポートフォリオ変革の最適解が刻々と変わることを意味する。自社に影響を及ぼしかねないリスクがいつ、どのような形で企業を襲うかは不透明だ。

 経営のレジリエンスを高めるには、不測のリスクにも適切に対応するリスクマネジメントの構築が欠かせない。第4章では、日本企業のリスクマネジメントの課題と課題解決のためにやるべき対策など、グローバルガバナンスの実効性を高める取り組みについて解説する。

 また、第5章では事業ポートフォリオ戦略に関連するホットトピックスとして、「サステナビリティ対応」「税務リスク対応」「不正・不祥事への対応(フォレンジック)」「サイバーリスクへの対応」をまとめた。

 最後の第6章では、日本を代表するグローバル企業で法務・内部監査部門をリードされる有識者による座談会を掲載した。事業の最前線にいる方々の忌憚のない意見は大いに参考になるだろう。

 本書では、レジリエンス時代の変化に対応する日本企業にとって必要となるファイナンス理論の研究や実務としてのガバナンス高度化などを通じて構築してきたPwCのさまざまなフレームワークを紹介している。攻めと守りの両面で参考にしてほしい。適切なガバナンスが存在することで、変革は内外からの信頼を勝ち得ることができ、その正解を定着させることができるだろう。

 最近、野球やサッカーなどを見ると、スポーツの世界では日本人の力が世界に通用する時代になってきたことがわかる。一方、かつて世界で高い競争力を誇っていた日本企業の多くは、過去の成功体験をベースとした組織や企業文化に縛られ、グローバルでの競争で後れを取っている。この差はどこにあるのか。それは世界基準のルールで戦える基盤整備ができていないからだ。ガバナンスや人事などの面でグローバル競争に必要不可欠な基盤を整備できていない現状に問題がある。

 資本主義の原則にのっとり、グローバルに適切な事業投資を展開すれば、日本企業にもまだまだ多くの成長機会があるはずだ。そのために必要なのが、本書で述べるグローバル基準のポートフォリオ戦略とガバナンスメカニズムである。日本企業には、今こそ変革する勇気を持ち、グローバル競争に向き合い、もう一度、世界の中で輝きを取り戻してほしい。

 本書の執筆メンバーは、多くの日本企業が再成長のきっかけをつかみ、日本企業にますます繁栄してもらいたいとの思いから、この企画に取り組んできた。われわれの知見が少しでも貢献できればと願ってやまない。

(※本稿は、PwC Japanグループ著『レジリエンス時代の最適ポートフォリオ戦略』から一部を抜粋し、再編集したものです)