地政学リスク、経済ルールや規制の見直し、生成AI等の技術革新、未知の感染症、気候変動など、事業環境の変化がかつてないほど大きくなり、経営の最適解も刻一刻と変わる「レジリエンス時代」が到来した。このような時代に、日本企業が生き残り成長していくには、どうすればいいのか――。PwCの各分野の専門家が最新の知見に基づいて上梓した『レジリエンス時代の最適ポートフォリオ戦略』にその答えがある。今回、同書刊行を記念して「はじめに」を特別公開する。

レジリエンス時代に日本企業が成長するための条件とは何か?〈PR〉

これからの経営でカギになるのはガバナンスの変革と
ファイナンス目線も備えた事業ポートフォリオの変革

 PwCでは、日本企業が直面する今この瞬間、そしてこれから続く日本企業の再成長のための期間を「レジリエンス時代」と捉えている。このレジリエンス時代に日本企業に求められる経営の舵取りについて提言しようと思い、私たちのチームは本書の出版を企画した。

 皆さんもよくご存じのように、ここ数年、ビジネス環境は激動の最中にある。なかでも4年近くにわたる新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが世界経済に与えた影響は非常に大きかった。また、ロシアによるウクライナへの侵攻や中東をはじめとする世界各地の紛争は終息を見せず、地政学的リスクは高まったままだ。さらには、気候変動問題や生成AIに代表されるテクノロジーの進化がビジネスに与えるインパクトも見逃せない。

 かつてないほど企業経営における不確実性が高まるなか、生き残りをかけて多くの日本企業が事業ポートフォリオの変革を断行している。たとえば、EV化が進んでいる自動車産業では、内燃機関の部品メーカーが電動部品メーカーへとトランスフォームしているし、自動車メーカーも徐々に事業ポートフォリオを入れ替えている。

 その一方で、十分に対応がなされていないこともある。それはガバナンスの変革だ。事業ポートフォリオが変化したのならば、その変化に応じてガバナンスも最適化しなければならないのにもかかわらず、それらは従来通りのまま変わっていない。これでは、企業経営における不確実性を乗り越えて戦っていけない。

 それでは、日本企業がこのレジリエンス時代に再成長していくにはどうあるべきか。環境の変化に適切に応じて自らが事業ポートフォリオを変化させつつ、その変化に応じた適切なガバナンスを整備・構築していくことだ。それも、事業目線だけでなく、ファイナンス目線も備えた事業ポートフォリオの変革でなければならない。企業価値向上を求める市場の要請に応じて、事業ポートフォリオを果敢に入れ替えるのである。

 ここで、一つ警鐘を鳴らしておきたい。それは、ROICを過信しすぎることだ。事業ポートフォリオ戦略でも、多くの日本企業がROICを活用しているようだが、これは場合によっては企業の成長性を損ねる可能性もあることに注意してほしい。そこで第2章では、事業戦略と財務戦略を融合させた、より適切な事業ポートフォリオ最適化の進め方を解説するだけでなく、実効性のあるROICの活用方法についても紹介している。

 だが、ただ単に事業ポートフォリオを入れ替えただけでは、変革は成し遂げられない。その効果を最大限に発揮するには、組織全体に変革の波を浸透させる必要がある。それが、組織を統制するガバナンスの変革である。特に、M&Aで自社とは異なる文化を持つ企業がグループに参画したり、新規事業を展開したりする場合には、それまでの成熟したビジネスに対するものとは異なるガバナンスを適用しなければならないこともある。

 また、グローバル展開している日本企業、あるいはさらなる成長を求めて海外進出を検討している日本企業は、海外でも通用するガバナンスモデルの導入が必要だ。なぜならば、海外では日本型経営はスタンダードではないからだ。あまり世の中では議論されていないが、ガバナンスは事業ポートフォリオの変化に対応させて見直す必要があるのだ。そこで第3章では、最適ポートフォリオ戦略の実効性を高めるグループガバナンスのあり方と取り組みについて解説する。