総予測2025#39Photo:PIXTA

2013年春から始まった異次元の金融緩和。この時の物価上昇は一時的だった。なぜ今回の輸入物価の上昇は、「賃金と物価の好循環」へとつながりつつあるのか。特集『総予測2025』の本稿では、今回の物価上昇の特徴を解き明かした上で、25年の賃金と物価の正常化を左右する意外な施策を紹介する。(東京大学大学院経済学研究科教授 渡辺 努)

輸入物価の上昇は持続的な物価上昇に
多くのエコノミストが読み切れず

 消費者物価指数(CPI)上昇率が4%に達した2023年初頭、インフレ率は今後低下すると多くのエコノミストが予想していた。

 例えば、民間のシンクタンクや金融機関などのESPフォーキャスト調査の予測では、コアCPI前年比は24年第4四半期には1%を割り込むとの予想だった。しかし実際はコアCPIが2%を下回ることは一度もなく、現在も2%を大きく上回っている。

 当時の想定は、輸入物価の上昇は一時的で、それが過ぎ去ればCPIも元に戻るというものだった。しかし、輸入物価の上昇は国内価格や賃金へと波及し、持続性が生まれた。エコノミストが当時読み切れなかったのはこの化学反応だ。

 慢性デフレの30年間には、輸入物価の上昇が国内に流入する事例が複数あった。しかし、ことごとく一過性の物価上昇で終わった。もし今回の物価上昇が一過性でないとすると、今までとは違う要素があるはずだ。

 今回の物価上昇と比較するのに最も適しているのは「異次元の金融緩和」の初期の物価上昇だろう。異次元緩和は13年春から始まり、急速に円安が進んだ。それが輸入物価を上昇させ、その一部は国内価格に転嫁された。しかし、このときのインフレも一時的だった。

次ページで異次元緩和開始時と現在のインフレの違いを分析し、25年以降の賃金と物価の正常化の鍵を握る政策を挙げる。