「ご招待をしておきながらこんな状況になって申し訳ありません」
元総務相の武田良太の元に緊急連絡があったのは12月4日。韓国大統領府からだった。こんな状況とは言うまでもなく、韓国大統領の尹錫悦(ユンソンニヨル)が12月3日夜に発令した「非常戒厳(戒厳令)」を巡る大混乱のことだ。武田は日韓議員連盟の幹事長として尹政権発足後の日韓関係改善に尽力してきた功労者の一人。ところが、10月の衆院選で苦杯をなめ、議連幹事長を降板した。
このため尹の計らいで5日にソウルで武田の慰労会が予定されていた。その出発直前の連絡だった。武田に続いて予定されていた同議連会長で元首相の菅義偉、さらに来年1月の首相、石破茂の訪韓も取りやめ。2023年3月の尹来日による前首相、岸田文雄との首脳会談を契機に始まった日韓蜜月は急ブレーキがかかった。
在京勤務の経験がある韓国外務省関係者は、今回の異常事態の背景に尹の経歴があったと指摘する。
「検察官として頂点の検事総長をやったことで、尹大統領には法を使えば何でもできるという民主主義の流れと全く違う感覚がある」
尹が大統領に就任したのは22年5月。以来、野党側との対話や妥協を図ることをしなかったことがそれを象徴する。記録に残る野党側との公式会談は数えるほどという。しかし、現実の国会は野党側が3分の2近くの議席を占める少数与党政権。具体的な成果をほとんど上げられず、妻の不正疑惑も取り沙汰され、国民世論の尹離れが加速。最近は支持率が20%を割り込むほど低迷していた。