日本ではよくないとされる「ずる賢さ」も
地中海世界では褒められる

 異国では倫理観や価値観、そして宗教もさまざまで、共有することは難しい。「例えば、ずる賢さは、日本ではよくないとされていますが、地中海世界では『おまえなかなかずるいな、いいぞ』と褒められます」

 歴史や地理の相違によってそこでの生き方が変わっていく。例えば、砂漠で暮らす人たちが水の調達という死活問題に直面したとき、ずる賢さは生きるのに必要なことだとヤマザキさんは理解を示す。

「信じることが美徳というのは世界共通ではない。信じていたのに裏切るなんてひどい人、という考えが通用するとも限らない。信じたおまえが悪いとなる国もある」

 倫理観や価値観が違う人とはどう接したらいいか。「そもそも持っている物差しが違う、ということの認知は基本」だと言う。

「自分たちのルールとは違う考え方の人がいたとしたら、その人の生きている環境や背景にも目を向けること。あらゆる差異を否定しない。むしろ発展的な視野や理解力を得るためには必須です」
この世には自分の知らないことがたくさんある。ヤマザキさんが世界を旅し、暮らした実体験は漫画にも生かされている。

「コスパのいいこと」だけやり続けた人の末路【ヤマザキマリが教える】

 代表作『テルマエ・ロマエ』は古代ローマ人の主人公がタイムスリップした日本の風呂文化を学んで古代ローマの風呂に生かしていく物語である。『プリニウス』は博物学者にして、艦隊の司令長官プリニウスが火山の噴火や雷といった自然現象や、動植物の生態などを観察するために古代ローマ帝国中を旅する。主人公たちの探究心は、ヤマザキさんの異文化を理解する実体験があってこそ、生き生きと説得力が増す。

「自分の足をしっかり地面に着けて、地球の引力を感じながら歩くことで、地球が長い時間をかけて何を見てきたのか知ることができます。誰かに頼らず、自分の足で歩くことで安心感も生まれる」