想像力は自分に羽飾りを着けるためではなく
感情の経験値を増やすためにある

 想像力は大事だが、「想像力は自分に羽飾りを着けるために使うのではなく、自分たちの視野や理解力に幅と奥行きを広げるためにあるもの。想像力をうまく使いこなせば、社会でのさまざまな軋轢ももう少し抑制されるのではないかと思うのですが」と言う。

 良い社会をつくるために寛容性が必要で、その源が想像力なのだ。

「自分では納得ができないことを言っている人に出会ったとき、なぜその人はそう考えるのか、そういう考え方はどうして生まれるのか、認知してみようと思う力や好奇心を養うことがとても大事です」

 頭では分かっていても、なかなか実行に移すのは難しい。そんなときこそ本を読んだり映画を見たり旅をすることも大事だと言う。

「旅や読者や映画を見ることは新しい価値観や世界観を見いだし、異端に対しても拒絶ではなく理解を深めるきっかけになります。自分の心身の生命力を豊かに、そして頑強にするためのそうした努力こそ、健やかな知性の在り方ではないでしょうか」

「コスパのいいこと」だけやり続けた人の末路【ヤマザキマリが教える】自宅の仕事場 写真提供:ヤマザキマリさん

『テルマエ・ロマエ』が大ヒットし、映画化もされて以降、ヤマザキさんは多忙を極めてきた。

「一時期、漫画だけで5本連載、エッセイだけで8本連載なんてこともありました。今はさすがにそこまでではないですが。働き過ぎるとおのずと体調にきますよね」

 その反省を生かして、いまは「無理をしない」ことを心がけている。「インプットも大事です。表現者は自分の畑を耕して作品という農作物を生み出しています。良い土にするために、読書や映画以外にも、美術館へ行ったり音楽会へ行ったり、大自然と接したり、そういう良質な触発という肥料を定期的に補給します」