現在は『続テルマエ・ロマエ』をウェブで連載中だ。

「ウェブは紙媒体に比べると、締め切りなどで融通が利くので、病気になるなど体力的に苦しいときに、公開時期をずらすことを検討してもらいやすいので助かります。でも1回甘えてしまうと、更新のペースが乱れていくようになってしまい、よくありませんね(笑)」

 ファンとしては続きが少しでも早く読みたいが、働き方改革が推奨される時代であるから仕方ない。

「雑誌連載のときは、さまざまな工程を経るので、ちょっと体調が悪くても、出版社の方をはじめ、関わっている方々に迷惑をかけたら申し訳ないという気持ちで、休めませんでした。でもいまはウェブのおかげでそこまで無理をしなくて済むことはありがたいですね」

ウェブの漫画連載では
「コメントに励まされている」

「コスパのいいこと」だけやり続けた人の末路【ヤマザキマリが教える】やまざき・まり/1967年東京生まれ。東京造形大学客員教授。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。エジプト、シリア、ポルトガル、米国などの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞愛賞。著書に『プリニウス』(とり・みきと共著)『オリンピア・キュクロス』など多数。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中。 (撮影/加藤昌人、ヘアメイク/田光一恵〈TRUE〉)

 ウェブのいいところはもう一つある。

「不特定多数の方に読んでもらえることです。雑誌はその雑誌を買っている方たちしか読めないけれど、ウェブだと普段はそんなに漫画や特定の漫画雑誌を読まない人たちにも読んでもらえる可能性があります」

 また、読者のコメントがすぐに読めることもポジティブに捉えている。

「これまではレビューやコメントは絶対に読まなかったんです。匿名で好き勝手なことが書けるネットでは最悪な思いをたくさんしてきたので、そのトラウマですね。

 でも『今回はいいことしか書いてないよ』と友人に言われて、どれどれほんとかな?と怖いもの見たさでのぞいてみたら、本当にみんな楽しみにしてくれているのが分かって、素直にうれしかったです。『ゆっくりのペースでもいいから、待ってます』などと書いてあると、病気に気を付けつつ毎月更新できるようもっと頑張らねばと思う。単純ですが、褒められて伸びるタイプなんで(笑)」

『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』と古代ローマ人を主人公した漫画を描いてきたヤマザキさんにはイタリア人が日本に来て、日本の作家たちと交流する『ジャコモ・フォスカリ』という未完の作品もある。

『ジャコモ・フォスカリ』は実はドナルド・キーンさんがモデルで、1960年代の東京での三島由紀夫さんや安部公房さんとの交流が描かれています。ただ、戦後のイタリア文学もクロスしたネタなのでいろいろと調べる時間を要してしまい、今はいったん停止状態。でも思い入れの強い作品なので、いつか再開したいと思っています」