私は「ストレスはありませんか」と尋ねました。すると男性は「いえ、私はストレスがたまらない性格です」と答えました。そうなのです。特に日本人のビジネスパーソンには「私はストレスに強い」と思い込む方が非常に多い。
しかし「ストレスがない」という人ほど実は危ないのです。“過剰適応″といって本当は大きなストレスを抱えているのに、それに気付かず一生懸命がんばってしまい、心身共に疲れているのです。
「嫌なやつ、嫌なこと、嫌な自分」で
思い当たることはあるか
私は男性に再び質問しました。
「それでは嫌なやつ、嫌なこと、嫌な自分――このどれかに思い当たることはありませんか?」
こう聞くと、何かしら出てくる人が多いです。
男性も、「あぁ、アイツが嫌です」「嫌なこと、あのプロジェクトですね」「嫌な自分は、そのプロジェクトがうまくいっていないことでクヨクヨしている自分です」と、次々に答えるではありませんか。
“ストレスとは無縁″と思っている方も、ぜひこの3つで自分の状況を振り返ってみてください。
ストレスは気付くことが大切です。「自分にとってのストレスは何か」ということに気付くだけでも、ストレスレベルが下がるのです。
眉間のシワは
ストレスのサイン
ここまで読んでも自分にストレスがあるかどうか、ピンとこない方のために、次は「目で見て分かる」ストレスのサインをご紹介しましょう。
私は「ベートーベンのシワサイン」とネーミングしたのですが、精神神経科の世界では慢性的にストレスのかかっている人やうつ病の人には、眉間にシワができていることが多いということが知られています。
理由は、ストレス過多になると脳の広範囲に構築されている中枢性自律神経ネットワーク(CAN)が興奮し、それに伴って脳の青斑核(せいはんかく)という場所が反応します。ここがシワを寄せる筋肉と密接な関係があるため、眉間のシワが深くなると考えられています。
以前は眉間のシワのことを、うつ病と眉間のシワとの関係を発見した医師の名前をとって「フェラグートのシワ」と呼ばれていたこともありますが、私はベートーベンの方が分かりやすいかと思い、そう名付けてカルテにも書きます。
ちなみにベートーベンも20代後半から両側の耳が聞こえにくくなり、30歳で症状が進行して重度の難聴に、40歳頃には全く聞こえなくなったといわれています。作曲家でありながら音がほとんど聞こえないという大きなストレスが、眉間のシワにつながったのかもしれません。
そのようなわけで私は診察室に入ってきた患者さんの顔、とりわけ眉間をまず観察します。冒頭で紹介した55歳の男性も、ベートーベンのシワサインがはっきり出ていました。