(5)事業計画の策定能力が低下
経営と現場のギャップが課題
そして最後に、2024年に始まったことではないが、事業計画の策定能力の低下である。
昨今、事業計画全体を設計する本部と、実行する現場の実態との間に生じるギャップが重大な課題となっている。この乖離は、経営層と現場の間でのコミュニケーション不足や、事業の現実的な評価能力の欠如に起因していると考えられる。
経営企画部門は資本市場から求められる利益創出のため、市場分析や財務分析に基づく事業計画を立案するのだが、これが現場の実情に合っていない。あるいは計画策定にあたって現場の声が十分に反映されていない。
例えば、前述の人手不足から来る生産部門の能力低下や設備の老朽化などによるリソースの限界を過小評価し、本社主導で非現実的な生産目標を設定することが多々ある。
過去には、計画的なローテーションを経て、現場での実務経験が豊富なスタッフが計画策定に関わることが一般的だったが、今日では財務や企画部門の専門性の高まりから、現場をほとんど知らない“頭の良い官僚(民僚)”によるデータや数字に基づく計画策定が主流となり、現場感覚が大きく欠けている。
実は、この状況こそが、品質データ偽装や検査不正といった別の重大な問題を引き起こす主要な原因となっている。机上の計画に基づいて設定された非現実的な目標を達成するために、現場が不正な手段に訴える以外の道を見つけられなくなっているのである。
これらの問題を解決するためには、事業計画の策定過程において、現場の実態をより深く理解し、現場のスタッフと経営層が密接に協力する体制を整える必要がある。また、実務経験を持つ専門家を計画策定過程に積極的に参加させることで、現場の声を計画に反映させることも重要となる。
よって、今までやってきた事業計画策定のプロセスや方法に対する再検討が必要となる。現場の現実を踏まえた上で、資本市場の期待にも応えるバランスの取れた事業計画を策定することが、今後の企業にとっての大きな課題である。
さて、私が見ている範囲での2024年に顕著だった組織現象を5つ紹介した。今年もまた、いろいろな課題が多く見られた年のようにも思えるが、2025年はもっとさまざまな変化に遭遇し、組織は大きな変革を求められることになるだろう。
ただし、基本的には、多くの組織は長年続いた停滞期を終えて、面白いポジティブなフェーズに入る。本連載でも、これから始まる組織の大変革期を丁寧に記録していきたいと思う。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)