経営戦略と人事戦略は
連動しているか
就活生にとっても、人材が活躍し成長し続けていく会社の見極めは重要だ。この点で有価証券報告書は貴重な情報源になる。
開示の義務化は①人材育成方針・社内環境整備方針(人材の採用および維持ならびに従業員の安全および健康に関する方針等)②それらの方針に関する指標・目標・実績③管理職に占める女性労働者の割合・男性労働者の育児休業取得率・労働者の男女の賃金の差異だ。
これら3項目で、人的資本経営に積極的に取り組む企業は、採用に対する考え方、エンゲージメントサーベイスコア、リスキリング制度、人材育成投資額・時間・参加率、外国籍従業員比率、公募制度など人材戦略に関する情報を幅広く開示する。これらを比較すると各社の特徴が明らかになる。
就活生がこの情報を読み解く上でのポイントは主に二つある。
「一つ目は、経営戦略と人材戦略の連動。社員全員を大事にしますというのではなく、企業の経営戦略やビジネスモデルの実現を支えるのはどんな人材で、いかに採用し、どう育てていくのかを明確に示していることが肝要である」(國澤氏)
好例の一つが、小野薬品工業だ。有価証券報告書では経営戦略と人材戦略の連動を図で示し、26年度までに次世代経営人財を250人以上、グローバル人財を300人以上、デジタル人財を500人以上、イノベーション人財を180人以上にするなどと明記し、将来の人材ポートフォリオを数字で示している。
「この四つのどれかになりたいと思っている人は、活躍する未来が想像できる」(國澤氏)
企業は存続のため、時代の変化と共に事業を変えていく。そのため、将来において主軸として会社を動かし得る人材を採用し、事業を変革する力を養っていく。
例えば、人口減少で国内需要が縮小する中、国内営業職を減らし、グローバル人材を増やすのは自然な流れだ。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業は、デジタル人材を積極採用し教育投資する。採用と育成の両軸で企業戦略を実行していくのだ。
もう一つの注目すべきポイントは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)への取り組みだ。
「多様な人材がいることは、企業の健全性を生み出す。多様な意見が出て、チェック機能が働くからだ。さまざまなアイデアからイノベーションや変革も起きやすくなる。こうした健全性や革新性があることで、企業は中長期で成長する」(國澤氏)
この点での情報開示での好例はソニーグループだ。有価証券報告書には「人材の多様性には、国籍や人種、性別などいわゆる『属性の多様性』と、一人ひとりがキャリアにおいて培ってきた『経験の多様性』とがあり、その双方を確保し推進していくことが組織の成長を加速させると考えています」と書かれている。
さらに、30年までに役員に占める女性比率および外国籍比率をそれぞれ30%以上にすることを目指している、と明記。考え方と数値目標の両方を示し、説得性を高めている。