人材を企業の価値創造の源泉として捉える「人的資本経営」。上場企業は有価証券報告書でその情報開示が義務となった。就活に役立つ情報は有価証券報告書のどこに書かれているか。具体的な企業事例を基に、専門家に解説してもらった。(取材・文・撮影/嶺 竜一)
「人や社会」を大切にする企業を見極める
人的資本経営が今、企業経営のキーワードである。
「どの企業もリクルートブックには人を大切にしていると書いてあるが、それだけでは真剣度は測りにくい。一方、人的資本経営についての開示情報では、会社の未来と社員の将来をいかに真剣に考えているかが読み取れる」と日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門シニアマネジャーの國澤勇人氏は話す。
それは「人材を『資本』として捉え、その価値を最大に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」(経済産業省の定義)を指す。従来モノ、カネと並んで経営資源としてきたヒト(人材)を、資源ではなく資本であると捉える。資源は使えば減少するが、資本としてのヒトは教育や研修等により成長し増加すると考える。
企業価値は、企業が中長期にわたって創造すると見込まれる価値の総和を、現時点で評価するものだ。
欧米の主要企業は1990年代後半から、知的財産、ソフトウエア、デザインなど無形資産に多額の投資を行い、企業価値を高めてきた。相対的に日本企業はそうした投資が遅れ、企業価値が低迷している。先進国では、無形資産が価値を創造する産業構造にあるのだ。
金融庁は、上場企業に対して、有価証券報告書に人的資本経営についてのデータ・情報を、2023年3月期決算以降に係る事業年度から開示する義務を課した。
「日本企業が企業価値を高めていくには、無形資産の価値を高める源泉としての人材により多く投資し、その能力と意欲を高めることが不可欠。そうした人的資本経営に中長期的なビジョンと戦略を持って取り組んでいるかを知りたいというのが投資家の要請だ。そこで、この情報の有価証券報告書への記載が義務付けられた」(國澤氏)