「管理職を辞めたい」という社員を、会社はクビにできるのか?
「私としては、営業マンにしては物静かなタイプですが、組織をまとめる能力に長け、取引先や部下からの信頼も篤いB君にこのまま課長を続けてもらいたい。これからも説得を続けますが、もしB君が了承しなければ、会社の意向に背いたとして、社長の言う通りクビにしてもいいんですか?」
○懲戒処分とは、社員が就業規則違反や企業秩序違反行為をした場合、企業が制裁のために科す処分をいう。甲社長が言う「クビ」は懲戒解雇のことで、他には減給、出勤停止、降格、けん責などの処分がある。
○懲戒処分を行う場合、処分の種類やどのような場合に処分可能なのかなどを、就業規則に明記することと、処分の理由が合理的なものであることが必要である。
○社員が管理職を辞めることのみで懲戒処分にすることはできないが、以下の行為に対して懲戒処分にすることはあり得る。
・職務怠慢、業務命令の不履行、ハラスメントに該当する不適切な言動行為など就業規則や企業秩序に違反している場合。
・横領、虚偽報告、機密情報の漏洩など会社に重大な損害を与えた場合。
D社労士のアドバイスを受けたA部長は、翌日もB課長と面談しようとしたが、有休で出社していなかったので、C主任と面談し「B課長が辞めたがっている理由を知らないか?」と尋ねた。すると意外な答えが返ってきた。
「先月の中旬、Eが無断で課内ミーティングに遅刻したんです。Eはもともと遅刻の常習犯だったので、B課長にしては珍しく皆の前で強く注意したら、Eは相当ショックを受けたらしく、次の日から「おなかが痛い」「吐き気がする」と言って会社に来なくなったんです。心配したB課長はEに何回も電話してましたが、逆にEの親からはパワハラ扱いされてました。もしかしたらそれが原因かもしれません」
真面目なB課長は、Eが出社しないのは自分のせいだと悩み、課長としての自信を無くしていたのだ。
「もしそうなら、何故すぐ私に相談してくれなかったんだ」
「A部長だったらすぐ「気にするな」って威勢よく言っちゃうでしょ?それじゃ悩みの解決になりませんよ」
「そうか……。D社労士からは『相手に寄り添って話を聞くように』アドバイスを受けたし、2人には痛いところを突かれたな」
翌日の朝、A部長はB課長をつかまえ、C主任から聞いた内容を話し「これが課長を辞めたい理由かな?」と尋ねた。B課長は小さく「はい」と言い、うなずいた。
「E君のことは私が対処するから、これからも課長を続けてほしい」
「わかりました。E君の件、よろしくお願いします」
翌週の月曜日、休み明けのEが出勤してきた
「おはようございまーす」
翌週の月曜日。出勤したEは真っ先にB課長を探し、見つけると頭を下げた。
「年末年始に家族でハワイ旅行したらすっかり元通りになりました。いつから会社に行こうかと悩んでいたところに、昨日A部長から、『元気なら明日から出てこい』と電話をもらいました。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「また今日からよろしく頼むよ。そうそう、仕事始めの朝礼で全員に今年の抱負を発表してもらったけど、E君の今年の抱負も聞かなくっちゃね」
「はい。遅刻をしないことです!」
B課長は大笑いした。