電話機に!?視線を下に向けると、確かに電話機自体にパスワードが貼られていた。これは僕の圧倒的な敗北だ。心なしか電話口の向こうから、ホテルの人のしてやったり感が伝わる。

「やはりあなたも他の愚かな刑事達と同じですね、ガッカリですよ」みたいな、謎の怪盗紳士感が醸し出されている。

 そんなふうに必死の思いで手に入れたパスワードなのに、入力しても全然Wi-Fiに繋がらない時がある。アルファベットに間違いがないか、大文字小文字はしっかり合っているか、何度も何度も確認して慎重に入力する。それでも繋がらない。

 あまりにも繋がらないので諦めたあるホテルでは、翌朝、帰り支度のためデスク周りを片付けていたらデスクの電気のスイッチの横に、Wi-Fiの電波を入れるスイッチがあった。

「な、な、なんじゃこりゃー!!!」

 1人なのに大げさにリアクションしてしまったのは、僕が芸人だからではない。百歩譲って冷蔵庫の電源オフは電気代の節約だとわかるけれど、まさかWi-Fiまでとは。いくらなんでも、これは気がつかない。やられた。絶望をひっさげて部屋を後にする。

電気のスイッチが
多すぎる部屋

 いざ寝ようとした時に電気のスイッチが多過ぎる部屋もあって、どれがどこの明かりに対応しているか全くわからないことがある。とりあえず全部押してみて、なんとなく把握するパターンが多い。

 この前は、部屋の真ん中の、ベッドの真上にあることが多いメインの電気のスイッチがどこを探しても見つからなかった。かなり探したけれど本当に見つからない。この上ない屈辱と、またしても謎の敗北感。

 諦めてそのまま寝ようとしたがさすがに明る過ぎて眠れず、泣く泣くフロントに電話をして尋ねると、

「今かけていただいているお客様の電話機の……」

「電話機の!?」

 まさかのデジャブだ。

「……置かれている真下の引き出しの、取っ手と思われる装飾の真ん中に小さい黒い突起があると思うんですが……」

「あ、あります、あります」

「それです」

 それですやあらへんがな!!心の中で会心のツッコミをしてしまっていた。