「監視」がもたらす2つの重要な効果
営業部の業務は緻密さを要し、時間的にも精神的にも厳しい負担がかかるものであっただろう。編集部の自由度の高い働き方とは対照的な環境であり、両部門の文化の違いが際立っていた。
編集部と営業部はそれぞれの役割を果たしながら、雑誌全体の成功を目指して活動していた。異なる文化を持つ部門が協力することで、プレジデントは独自の強みを発揮してきたわけである。
今や雑誌不況が吹き荒れていて、同社の厳しい状況も漏れ伝わってくるが、かつてのプレジデントは雑誌制作において編集と営業が補完関係にあることを実感しながら、黄金期をつくりあげていたわけだ。
仕事の仕方、評価の仕方において、業務内容によって全く違うということがよくわかる。では、全ての職種に通じるような、評価の仕方、仕事の仕方はないのだろうか。
少し古い研究なのだが、後の経営学に多大なる影響を与え、数多(あまた)の引用をされたチューリッヒ大学の論文に『モニタリングは労働努力を高めるか? 信頼と忠誠心のライバル関係』(1993年)がある。
論文の前提となっているのが「プリンシパル・エージェント理論」。管理する側と働く側の関係について説明した理論だ。働く側は、自分の利益を優先することが多いため、できるだけ少ない労力で仕事を終わらせようとする傾向がある。
働く側が本気で働くようにするために、管理側は監視や罰則、報酬を利用することが多い。しかし、これらの方法がいつも上手くいくわけではない。
「監視」には2つの重要な効果があるという。
1つ目は規律効果である。規律効果とは、監視を厳しくすることで働かないことによる罰則が強くなり、結果として働く側がもっと努力するようになることである。この効果は、管理する側と働く側の関係があまり個人的ではなく、お互いの感情が影響しない場合に特に強くなる。