化学サバイバル!#13Photo:PIXTA

石油、化学、鉄鋼、電力の集積地であるコンビナートが岐路に立たされている。日本は2050年に向けて地球温暖化ガスの排出を実質ゼロとする方向にかじを切ったが温暖化ガスの9割を占める二酸化炭素(CO2)の4割は電力部門、3割は産業から排出されており、その過半が鉄鋼や化学などの産業を抱え、火力発電所を擁するコンビナートから排出されているからだ。特に化学産業はこの脱炭素対策に加え、過剰な設備投資を進める中国の大増産による需給悪化により、基礎原料となるエチレンプラントの稼働率が低迷し、採算が大幅に悪化。日本各地のコンビナートで能力削減の動きが進んでいる。しかしコンビナートは地域経済の担い手であり、日本のものづくりの根幹を成す基礎素材を製造している。脱炭素というチャレンジをチャンスに変えない限り、日本の産業は衰退するのみ。CO2排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルの取り組みをコンビナートの再生に向かわせるウルトラCはないのか。特集『化学サバイバル!』の#13では、コンビナート衰退の危機をチャンスに変える処方箋を探った。(国際大学学長 橘川武郎)

日本各地で始まった高炉とエチレンの閉鎖
衰退の危機をチャンスに変えるには

 2023年9月、神奈川県川崎市扇島のJFEスチール東日本製鉄所(京浜地区)の第2高炉が、運転を休止した。これにより、理論上、年間約700万トンの二酸化炭素(CO2)排出量が削減されることになった。その結果、CO2排出量を30年度までに13年度比で50%削減するという川崎市の目標は、ほぼ達成されるに至った。

 24年5月、第7次エネルギー基本計画の策定を開始した総合資源エネルギー調査会基本政策分科会第55回会合の場で資源エネルギー庁は、日本の温室効果ガス削減は、50年ネットゼロへ向けて「オントラック」であることを強調した。

 また、ナフサクラッカー(石油化学工業の出発点となるナフサを熱分解するエチレンなど基礎原料の製造プラント)などを集約する動きも相次いでいる。例えば、日本最大のコンビナートである京葉地区では出光興産が三井化学と設備を集約し、丸善石油化学は設備の運転を停止する方向だ。

 しかし、JFEスチール東日本製鉄所第2高炉の運転休止の事例のように、たとえCO2排出量が削減されたとしても、大きな付加価値を生み出す生産設備の廃棄ないし縮小によってそれが実現されるのだとすれば、日本経済全体に甚大なマイナスをもたらすことになりかねない。

 さらに、化学産業などの「大きな付加価値を生み出す生産設備」は多くの場合、コンビナートに立地し、地域経済を支えている。つまり、今、日本のコンビナートが衰退の危機に直面しているのである。実は、これを再生する道筋は三つある。そして、鍵となるのが原子力発電である。どういうことか。次ページでその可能性を探っていく。