全がん連が要望書を提出し
負担軽減・影響緩和を訴え

 いずれの所得区分も、高額療養費の自己負担限度額は、月収の3~4割程度になるように設計されている。だが、政府の統計では賃金水準は上昇しているとはいえ、物価高騰によって庶民はその実感を得られていない。特に、がんや脳血管疾患などで、継続的な治療が必要になった場合の負担感は大きく、不安に感じている人も多いのではないだろうか。

 そのため、がんの患者団体の代表である「全国がん患者団体連合会(全がん連)」が1月に発表した「高額療養費の負担上限額引き上げ反対に関するアンケート 取りまとめ結果(第1版)~3,623人の声~」には、次のような声が寄せられている。

「今回の見直しは、まさに働き盛り、子育て世代のがん患者にとって大打撃」

「長期的に治療が必要な方の負担が重くならないようにご配慮願います」

「生活費を切り詰めながら、治療をしています。これ以上、医療費がかかるとなると、治療をあきらめざるを得ません」

 同団体は、24年12月24日付けで「高額療養費制度における負担上限額引き上げの検討に関する要望書」を厚生労働省に提出し、自己負担限度額の引き上げの軽減、影響緩和を求めている。

 今回の見直しは、高額療養費を維持させるとともに、「健康な方を含めた全ての世代の被保険者の保険料負担の軽減を図る」ことが目的にあげられている。そのため、高額療養費の自己負担限度額を引き上げることで、1人当たりの保険料が年間1100円~5000円安くなるように見直されるという。

 会社員や公務員などが加入している被用者保険は、保険料が労使折半だ。保険料が下がれば、事業主負担も削減できる。事業主にとってはコストカットにつながり、歓迎すべき制度改正だろう。

 だが、被保険者(加入者)はたんに保険料を支払うだけではなく、自分が給付を受ける受益者にもなる。保険料が少し安くなっても、いざ、病気やケガをしたときの経済的負担が大きくなるような改正を望むのだろうか。

 そもそも「保険」とは、万一の保険事故に備えて、加入者全体で保険料を負担して、不幸にも病を得た人を支える相互扶助の仕組みで成り立っている。今は健康な人も、いつ病気やケガをして医療を必要とするかは分からない。年間1100円~5000円を多く負担しても、病気やケガをしたときに不安を抱えずに医療を受けられる方がいいと考えるのは、筆者だけではないだろう。

 患者への行き過ぎた負担増は、政権への信頼失墜にもつながる。高額療養費の引き上げ第1弾が予定されている25年8月までには、まだ少し時間がある。その間に、国はどのような対応策をとるのか。今後の動向を見守りたい。