車載ソフト大戦争#3Photo:d3sign/gettyimages

ソフトウエアの質がクルマの競争力を左右する時代となった今、大手自動車各社は高度なIT人材を囲い込もうと躍起になっている。米アップルや米グーグルなど大手IT企業に給与面で見劣りする中、どうやって人材を獲得しているのか。特集『車載ソフト大戦争』の#3では、自動車メーカーによるIT人材採用の実態と、クリアすべき課題を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)

デンソーが東京の拠点を2カ所に集約
採用強化と外部連携加速が狙い

 2月下旬、デンソーは東京都港区に開設した新たな東京オフィスを報道陣に公開した。JR新橋駅から徒歩7分のオフィスビルに入居し、受付には来場者の想像力をかき立てる現代アートを展示した。ユーザーエクスペリエンス(UX)を改善するために消費者や専門家をインタビューする専用の部屋も完備している。

 デンソーは今回、これまで6カ所あった都内の拠点を新橋と羽田空港近くの2拠点に集約した。同社は2030年度までにソフトウエア人材を1万8000人体制にする計画で、拠点の集約により中途採用を強化するほか、外部との協業を進めて車載OS(基本ソフト)や生成AI(人工知能)の開発スピードを速めたい考えだ。

 東京支社担当で経営役員の横尾英博氏は「新橋・虎ノ門エリアは最寄り駅からも近く、お客さまや官公庁などに近い場所にある。社内外でのコラボレーションをより多く生み出すことができる」と強調した。

 車載OSでトヨタグループを追い掛けるホンダもソフト人材獲得に向け躍起だ。

 ホンダは、1月下旬に150億円を人材育成に投資すると表明した。26年には東京にソフト人材向けの拠点を設ける。待遇の改善も進めており、部長級の年収を200万~300万円程度引き上げたり、専門人材の定年制度を撤廃したりして、ソフト開発を担う高度人材が長期間働けるような環境整備を進めている。

 ホンダの主要サプライヤーである日立Astemoはホンダに先んじて東京・渋谷にソフトの開発拠点を開設。クラウドサービスの子会社も設立してホンダをバックアップする体制づくりを急いでいる。

 一方、日産自動車の動きは鈍いと言わざるを得ない。同社は経営不振を巡る混乱で具体的な人材育成方針を対外的に示すことができていない。人材にアピールする意味でも、早急な対応が求められる。

 上記のように各社が拠点の集中や待遇の改善を進める要因には、ソフトがクルマの価値を決めるソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)の浸透で、競争軸が日本の強みとしてきたハードよりもソフトに移っていることがある。

 ただ、転職市場ではエンジニアの需要に対して供給が追い付いていない。中途採用で経験者を採用したくても採りにくいのが実態だ。

 ではどれくらい人材が不足しているのか。次ページでは、ソフトウエア人材の転職求人倍率の推移を分析し、技術者の不足が続く背景と、自動車メーカー各社が取り組むべき喫緊の課題を明らかにする。