自動車・サプライヤー SOS#3Photo:EPA=JIJI

トヨタ自動車は、過去最高益をたたき出していることもあり、利益をサプライヤーに還元し始めている。だが、部品の調達価格の適正化は道半ばだ。特集『自動車・サプライヤー SOS』の#3では、自動車業界のリーダー的な存在であるトヨタが抱えるケイレツやサプライヤーを巡る問題に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

金型保管の強要、不当な返品など
優越的地位の濫用の疑いが51件も

「トヨタ自動車は2021年度まで、電気代の値上がりなどのコストアップ分の価格転嫁をほとんど認めなかった。収益も賃金も上げられず、『デフレの元凶だ』と批判したいぐらいだった」

 大手自動車部品メーカーの幹部は、数年前までのトヨタについてそう語る。同幹部によれば、トヨタは22年度になると電気代などのコスト増分の価格転嫁を認めるようになった。だが、それでも「負担は『折半』が基本スタンスだった」という。

 当時の岸田政権は同年、春闘で企業側に3%程度の賃上げを要請するなど官製春闘の色が濃くなった。企業の賃上げを促進するため、公正取引委員会や経済産業省からの下請け企業に対する「買いたたき」への監視が強まった。

 そうした中、トヨタは24年3月期、日本企業で過去最高となる5兆円超の営業利益を計上。一方で、同社に部品を納入する部品メーカーには、生産コストの増加分を価格に十分に転嫁できず利益が圧迫されているところが少なくなかった。そのため、トヨタへの利益還元圧力はいやが上にも高まっていった。

 そして、トヨタは25年3月期、取引先への還元策を打ち出した。サプライヤーや自動車ディーラーの賃上げの原資となる3000億円の「人への投資枠」を設けたのだ。実際、ダイヤモンド編集部が行った自動車メーカー取引先アンケートで、サプライヤーから最も高い評価を得た自動車メーカーはトヨタだった(詳細は本特集#1『【自動車サプライヤー幹部250人調査】トヨタ・ホンダ・日産の「通信簿」、役員のビジョン・値下げ圧力などを辛口評価』参照)。

 だが、人への投資枠の恩恵は、トヨタのサプライチェーンのティア2やティア3以降まで行き渡っているのだろうか。次ページでは、トヨタのティア1企業が今年度、どの程度の値上げに応じたかや、値上げにどんな条件を課しているかといった実態を解明する。

 また、同じトヨタグループでも、デンソーとアイシン、その他のメーカーとではサプライヤーとの交渉姿勢が異なることを明らかにする。

 さらに、トヨタとの交渉でアンケート回答者が「優越的地位の濫用」であると捉えたケース51件の内容も大公開する。